2018年9月26日午後1時から、東京2020大会(東京オリンピック・パラリンピック)のボランティア受付が始まります。このコラムが公開される頃には、下記のサイトで応募受付が始まっていることでしょう。 「東京2020大会ボランティア 公式サイト」 オリンピック・パラリンピックの成功は、まさに「大会の顔」となるボランティアの皆さんの活躍にかかっています! 「東京2020大会を成功させたい」という熱意をお持ちの方、またとない自国でのオリンピック・パラリンピックの運営に直接関わりたい方、みんなで一緒に東京2020大会を盛り上げていきたい方の応募をお待ちしております! 大会ボランティアの募集は9月26日13時から開始! https://tokyo2020.org/jp/special/volunteer/ ※「東京2020大会ボランティア 公式サイト」画像 大会をサポートする要員に8万人。これとは別に、都が用意する案内業務要員に3万人。合計11万人のボランティアを募集しています。(上記サイトでは都の案内業務ボランティアの募集はしていません) このボランティア制度については、疑問・議論が噴出しているのは誰もが知るところです。 猛暑、手弁当...「ブラック」扱いの五輪ボランティア 26日から史上最多の11万人募集開始 長野大会経験者「まずは体験を」と呼び掛け ただ、真夏の猛暑下での活動に加え、期間中の宿泊費も自己負担となるため、インターネット上では「ブラック」「やりがい搾取」と過酷さばかりを指摘する文字が躍る。1998年長野五輪の経験者は「まずは体験してみて」と参加を呼び掛けている。 (産経ニュース 2018年9月24日掲出) 大会本番では真夏の一番暑い期間に、1日8時間を10日以上務める活動が発生します(応募サイトより引用)。無報酬にしてはかなり過酷な内容に「ブラック・ボランティア」、「ただ働き」、「奉仕の精神にただ乗り」などの批判も出ています。しかも競技会場や案内業務の場所までの交通費や滞在費はすべて自己負担です。(1日当たり千円の支給がのちに決定) また、ボランティアに選ばれた人は大会期間中だけではなく、2019年から5回以上の事前研修を受ける必要があります。2019年1月から10月まで3回、2020年3月からは3回以上の研修が予定されているようです。 このすべての研修についても無報酬で受講しなければならず、アゴ足(食事と交通費)と宿泊費は自前ですから、応募するには相応の蓄えと時間的余裕が必要です。誰しも二の足を踏むでしょう。 もちろん、完全な無報酬ではないことを募集サイトでは説明していて、公式ユニフォームの支給をうたっています。 活動にあたりお渡しする物品等 「東京2020大会 大会ボランティア」オリジナルデザインのユニフォーム一式(シャツ、ジャケット、パンツ、キャップ、シューズ、バッグ等。アイテムによっては、複数枚を予定) ※ オリエンテーション、研修及び活動期間中における滞在先までの交通費及び宿泊は、自己負担・自己手配となります。 (上記「東京2020大会ボランティア 公式サイト」より引用) ここまで無報酬が徹底していると、ユニフォームが支給されたところで、関東圏在住で自宅から通える人でなければ、応募は難しいかもしれません。 今回の東京五輪の進め方、ボランティア募集問題について、筆者はとある方に意見をうかがいました。 大手広告代理店の元営業マンにして、現在は東京の水辺の観光活性化、商店街活性化など観光開発に汗を流すフリーランスプロデューサーのWさんです。 『国を挙げて誘致したオリンピックのはずが、その実現に必要な施策が「民間まかせ、放り投げ」となっている実態が数多く見られます。また、唐突に発表した「民泊許可」や観光ガイド資格を無力化する「無資格ガイドの緩和」など、各方面の業界にダメージを及ぼす行政緩和が場当たり的に行われています。』 (Wさんの話を筆者が要約) 日本国内で外国人をガイドして料金をいただくには、国が定めるガイド資格が必要でした。それが突然、資格なしで誰でも観光ガイドができるとなり、筆者も思わずわが目を疑ったひとりです。 誰でもできる!?有料観光ガイド これまで通訳案内士法では、国家試験を合格した「通訳案内士」だけに有料の観光ガイドを認めてきました。でも全国にわずか2万人ほどしかいなくて、年間3000万人にも迫る外国人旅行者のニーズに追いついていませんでした。 (NHK NEWS WEB 2018年3月1日掲出) こうした経緯からWさんは決意しました。 『当初は何か役に立ちたいと協力しようと思っていましたが、その気が失せました。自分がやりたいことを、やれる形でやることにしました。』(Wさん談) ----- 筆者が危ぶんでいることがもう一つあります。それは大会運営側がボランティアの活動内容に高度なスキルを求めている点です。その肝心の説明が安易になされているのも気になって仕方ありません。 「大会ボランティア活動分野」 1.指定なし 2.案内(セキュリティチェック) 3.競技(競技備品管理、競技の運営) 4.移動サポート(運転等) 5.アテンド(外国語対応) 6.運営サポート 7.ヘルスケア(搬送や応急手当) 8.テクノロジー(競技結果入力) 9.メディア(記者会見手配、大会記録、動画編集、新聞制作) 10.式典(表彰式運営) (「東京2020大会ボランティア リーフレット」より引用 カッコ内は本文から筆者が説明加筆) このボランティア内容を読むと、筆者ができそうな分野は、これまでの職業スキルと照らし合わせると、「9.メディア(記者会見手配、大会記録、動画編集、新聞制作)」しかなさそうです。ただ、筆者とてこの分野のプロですからタダで働くつもりはありません。事故があった場合、無報酬ではプロとして最低限のリスク管理すらできませんから。 いずれの分野も活動シーンを想像するにつけ、熟練した人でなければつとまらないのは一目瞭然。求められている技能は事前研修で習得できるほど甘くはありません。 高い職能が必要とわかっているならば、なぜ運営サイドはそれに見合った報酬を呈示したプロ用の公募サイトを開設しないのでしょうか。 やり直しがきかないぶっつけ本番のオリンピックであるなら、スキルの高い人をまず集めて、そのあとで補助的ボランティアスタッフを追加で募集した方がトラブルは少ないと思われます。 もしかしてアマチュアスポーツ選手の祭典という理念に引きずられて、運営にも無報酬のボランティアを求めているとしたら、お門違いと言わざるをえません。 また、乗客を乗せたクルマをボランティアに運転させる(4.移動サポート)のは、タクシーやバスの存在を考慮すると、いかがなものか。 選手や観客の移動には、自動運転バスを走らせるというスローガンはどこへ消えたのでしょう。 もうひとつの懸念は、大会運営と東京都がボランティア要員不足を見越した保険をかけ始めていることです。 オリンピックの協賛企業では社員がボランティア活動に参加することを推奨し始めました。それでも不足する場合は、国家公務員に動員が及ぶことは十分予測できます。都が計画する3万人のボランティアにしても、聞く所によると東京都内の市町村単位で人数の割り振りを行い、職員や団体職員の活用を考えているようです。 これらの動員は有給休暇を使ったり、公休扱いとなるでしょうから、ボランティアとはいいがたいものです。純粋にボランティアで参加した民間人と一緒に働いて、ギクシャクしなければよいのですが・・・。 課題の多いボランティア制度ですが、東京オリンピックまであと2年足らず。それなのにいっこうに「大会の顔」が見えてきません。 できることなら国民の間から大会への期待感が自然とわき上がるよう、今すぐにでも仕切り直しが必要な時期に来ているのかもしれませんね。(水田享介) --------------------- 「できる!」ビジネスマンの雑学 ジャンル別 --------------------- 〇ニュースを読む 〇出来事 〇本・雑誌 〇IT関連 〇旅 〇食と料理 〇教育 |
出来事一覧へ |