ふるさと納税は、納税者が指定した自治体に納税を付け替える制度で、その金額に応じた「返礼品」までいただけるという、いまや大人気の納税制度です。 今まで限られた財政でやりくりしていた地方の町村でも、職員の知恵と工夫しだいで何億、何十億もの臨時収入がころがりこんでくるのですから、どの自治体も知名度のアップや特色ある返礼品の創出に力を入れています。 ただ、今の制度では市役所・町村役場はふるさと納税を受け取って終わりということにはなりません。まず返礼品の仕入れや送料などの経費負担があります。ふるさと納税をした納税者が住む自治体では、税金の減額が待ち構えています。 そのためどの自治体もふるさと納税による受け取り税額を積み上げるだけでなく、他自治体よりも魅力的な、正直に言えば豪華な返礼品のコスト計算が必要です。それと同時に、地元の納税者がどのくらいよそに納税しているか、つまりどれだけ自分たちの税収が減るのか。そのことを勘案しなければ最終的な税収はわからなくなっているのです。 実際、ふるさと納税が始まってから税収が大きく減少した自治体も現れています。すでに当コラムでも取り上げたように、こうした傾向は大都市の自治体で顕在化しており、住民サービスの低下も起こり始めました。 [360]都市部・首都圏自治体にはつらい「ふるさと納税」 (2017年02月27日掲出) そんな中、首都圏で人口34万人をかかえる自治体の長がある決断を下しました。 ふるさと納税返礼品、やめたら寄付ゼロ「でも良かった」 埼玉県所沢市は4月から、2年続けた「ふるさと納税」の返礼品をやめた。昨年は同時期に23件231万円あった寄付が、今年はゼロ(12日現在)。それでも「決断して良かった」と言う藤本正人市長(55)に真意を聞いた。(聞き手・羽毛田弘志) ――やめた理由は。 「どこの返礼品をもらおうか」とか、テレビ番組の返礼品特集とか、理念と違う。自治体がほかとの差別化を意識し、終わりなきレースになっている。しかも参加したら最後、闘い続けなければならない。とすれば、降りるしかないというのが今回の決断だった。 (朝日新聞デジタル 2017年5月13日掲出) 自分の出身地や縁(ゆかり)のある自治体に納税を付け替えるという趣旨で始まったふるさと納税。藤本所沢市長はそれが今では限られたパイを奪い合う、単なるゼロサムゲーム(※1)になってしまったと訴えています。 さらに返礼品が自治体間で競争となる違和感に加え、高額納税者ほど減税や返礼品の恩恵を受けられることに税の公平性が失われているのでは、と問題点を指摘しています。 ふるさと納税制度がこのまま続けば、それぞれの地域で住民が守るべき民主的社会の継続が困難になるという市長の主張も、あながちオーバーな表現でないかもしれません。 総務省はいきすぎた返礼品に対して改善を促そうと、たびたび通達を出しています。 「返礼品(特産品)送付への対応について」(総務省 平成27年4月1日付) 「ふるさと納税に係る返礼品の送付等について」(総務省 平成29年4月1日付) 金券やパソコンなどの高額品の規制、上限額の設定などを定めていますが、はたして通達ひとつで問題は解決するのでしょうか。 藤本所沢市長のように制度への参加をやめてしまうのもひとつの選択です。ただ、ふるさと納税は硬直化しがちなお役所仕事を活性化したよい面もあります。 この制度をどう改良すれば、末永く定着するのか。もっと知恵を出し合っていただきたいですね。(水) ---------------- ※1 ゼロサムゲーム:互いに影響しあう複数の人の間で、限られた利益を取り合うため、参加者の利益と損失の合計は常にゼロになること、またはその状況を指す。 --------------------- 「できる!」ビジネスマンの雑学 ジャンル別 --------------------- 〇ニュースを読む 〇出来事 〇本・雑誌 〇IT関連 〇旅 〇食と料理 〇教育 |
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