自己紹介が出来れば万事OK?!
要するに話したいこと、話す中身があることが肝要
好きな洋画や洋楽で耳から英語の勉強をするという話をよく聞きます。好きなツールを使うのは、もちろん悪くは全然無いけど、日本人でも歌舞伎や映画や邦楽の日本語が分からないことがありますよね?ということは映画の英語や日本語が分かるというのは、かなりの高等レベルです。それより自分の言いたいこと、言うべきことが言えることが第一歩。言うべき内容があれば、自然と会話が成り立ちます。逆に、聞けても、話す内容が無ければ・・・(沈黙)。あなたが仮にアニメの雑学王なら、アニメ好きの外国人は、その会話が英語でも日本語でも、あなたの話すことに真剣に聞き入ってくれるでしょう!それが日本のゲームや武道、華道や茶だって然りです。
仮にあなたが日本の政治動向や自動車産業に詳しかったら、英字紙の日本政治や自動車メーカーに関する記事を、読ま(め)なくても、表題や写真だけで、その記事が何を言いたいか想像つきますね?英語の記事の間違いすら指摘することも可能かも知れません。そうなるとその記事の内容の話をするにも、より自信をもって話せますね。それを書いた記者よりも、あなたの方が事情に詳しく、何も臆する必要はないからです。例えば、外国人に日本語や日本の社会のことを教えることは、私たちが詳しい分野でのお話なので、より自信をもって外国人と接することができます。しかも「英語の問題ではなく、内容の問題だったのか!」と実感できて、「心の壁」を取り去るには有効です。
裁判や病原菌や宇宙や兵器の話など、普通の人には簡単には理解できない話題ですね。アメリカやイギリスの若者二人、老人二人がお互いぼそぼそと早口で話しているローカルな会話など、分らなくて(会話に入れなくて)当然。日本でも、町や家庭で耳に入るすべての日本語を全部ちゃんと聞いていますか?
新聞やニュースを全部、丁寧に読んでいますか?必要なことでも聞き逃したりしますよね。英語なら、テレビなどのあなたに関係の無いニュースやアナウンスは、分らなくて結構。あなたに必要な英語・話題を聞き取ろうと努力し、中学英語の文法、単語で、まずは口に出してみましょう。
その観点から言うと、英語であれ日本語であれ、日本人の喋りの最大の弱点は自己紹介に典型的に表れますね。自己紹介が数十秒で終わることが大問題なのです。学生たちに自己紹介を求めると、ほぼ例外なく、名前や学部、学年、出身地やサークルなどを小さな声で、しかも早口で喋り、それで終わりなのです。それが日本での自己紹介の定番パターンだし、日本は横並びの社会なのだからと言われれば、それまでなのですが・・・。
でもグローバルな視点から言うなら、それでは失格、駄目なのです。上でも述べたように、相手が自分の喋ることに関心を持ってくれていて、しかも喋る内容は自分自身のこととなれば、世界で一番詳しい問題について喋ることが出来る、これ以上ない格好の晴れ舞台ということになります。当然、自信たっぷりになって良いのです。それなのに、俯き加減でボソボソと喋ったり、数十秒でネタ切れを起こしたのでは、台無しですね。極論すれば、それが面接なら、それだけで人生が終わってしまいます。もちろん若い人々は、60年間生きてきた筆者のように、いろんな仕事を経験したことも、いろんな国に行ったことも多分無いでしょう。出会ってきた人間の数や、読んできた本の数、観てきた映画の数も、圧倒的に少ないでしょう。でも少なくとも年配の大人たちがまったく知らない新しい世界のことは知っていますね。昔は無かったものについても。若いからと言って、話すことが無い筈は絶対に無いのです。
例えば、自己紹介を膨らませるにはどうすればいいのでしょう。簡単な話です。喋ったことを、一々丁寧に、かつ面白おかしく、補足していけばいいのです。例えば初めに名前を名乗ったとします。筆者を例に取るなら、「私の名前は小川秀樹です」と言った後、その名前の背景について、何も知らない外国人に丁寧に説明してあげればいいのです。
例えば「私のファミリーネーム、苗字の「小川」というのは、小さい川と言う意味で、こう書きます(黒板に板書)。お分かりですか、単純に6本の線(stroke)だけですね。まさに流れる川をイメージできる漢字です。線だけですから、書くのも簡単です。でも逆に簡単過ぎてバランスを取るのが難しく、格好良く綺麗に書くのはとても難しい漢字です。書道(calligraphy)には向かない、いや、字が下手な私には向かない漢字です(笑)。ところで英語やドイツ語でも小川という名前はあると思います。私が知る限りでは、有名な音楽家のJ.S.バッハは、Bachと書いて、日本語式には小川さんという名前ですね。英語で言えばBeckです。
Jeff Beckなどというロックギターリストを若い人は知りませんか?(沈黙、笑)。中国語で言えばシャオ・チュアンです・・・。この名前は、当然ながら日本のどこにでもあり、ありふれた名前ですが、鈴木とか佐藤とかほど多くはありません。さて名前、ギブン(given)ネームの「秀樹」ですが、hidekiというスペル、読み難いですか?ハイデッカイでは無いですよ(笑)。ヒデキです。この名前は、かなり有名な名前ですね。例えば野球では、米大リーグNYヤンキースで長らく活躍した松井秀喜がhidekiですね。ヤンキースと言えば、伊良部という投手も名前はHidekiです。どちらも漢字は違いますけど。今、ゴルフで大活躍中の松山英樹もhidekiですね。こちらも漢字は私のとは違います。でもスポーツ選手だけに多い名前でも無いですよ(笑)。実際、私の名前は、日本人初のノーベル賞受賞者である、原子物理学者の湯川秀樹博士をまねて両親がつけたものらしいです。日本語では「名前負けする」と言う表現がありますが・・・(笑)。」というように。
カンボジアの経験をジャパンタイムズで話す筆者
名前からだけでも、少なくともこれだけ膨らませて、5分でも10分でも喋ることが可能だということがお分かりでしょう。皆さんも自分の名前をしっかりと詳しく説明する準備を、是非しておきましょう。
実際、外国人学生に自己紹介させると、堂々と何分にもわたり喋る人が多いです。それはその人たちの社交性や積極性、エンターテイナー性を示していますが、日本人もそうした人々のなかで英語を喋っていくのだということを銘記しておくべきでしょう。 (続く)
タイトル 『目から鱗! 気分を変えて英語に向き合う処方箋!』 ~ 理想や虚像に幻惑されないで、足元から着実に ~
千葉大学教授 小川秀樹 (国際社会論・グローバル人材論)
1956年生まれ。79年、早稲田大学政経学部卒業、ベルギー政府給費でルーヴァン大学留学。国連ESCAP(バンコク)、在イスラエル日本大使館勤務等を経て、横浜国大大学院博士課程修了。岡山大学教授等を経て、2016年より現職。
著書に『ベトナムのことが3時間でわかる本』(明日香出版社)、『あなたも国際貢献の主役になれる』(日経新聞社)、『ベルギーを知るための52章』(明石書店)、『学術研究者になるには 人文社会系』(ぺりかん社)、『国際学入門マテリアルズ』(岡山大出版会)等、多数。