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2017年10月05日
目から鱗!気分を変えて英語に向き合う処方箋! 第8回(連載10回)

頭から飲み込む読解メソッド実演! -「後ろから訳す」の愚

 さてまた今回は具体的に英語に触れてみましょう。英文に立ち向かう基本姿勢を今回だけでしっかりと会得して頂ければと思います。

It would be difficult, if not impossible, to do something・・・という文章があったとします。挿入句は別とするなら、「何とかすることは、・・・・・、難しいだろう」ということですね。この文章を学生に訳させると、予想外に多くの人が頭を抱え込みます。「何とかすることは、不可能じゃないとしたら、難しいだろう・・・???あれ・・・?」というわけです。

 この学生の悩み、頭の混乱は、英語に嫌悪感を抱かせることになるだろうと思われる、いくつかの重要なポイントを示しています。まずは学校で習ったであろう「後ろから訳す癖」が邪魔しています。そして挿入句などを非常に重視する癖もそうです。逆に言えば、その二つを止めてしまえばいいのです。頭からそのまま読んで素直に理解していけばいいのです。しかも取りあえず、面倒な挿入句や副詞・形容詞などは無視して。

 つまり「困難だろう・・不可能じゃなくても・・・何とかすることは・・・」というように。意味はそれで明快で、これで頭の中での読解は完了なのです。それでは気持ちが悪い人のみ、その後で「何とすることは、不可能ではないにしろ、難しいだろう」と置き換えればいいのです。

 この簡単な一文にどう対応するかが、英文読解のコツの全てを集約して示しています。ここで心に銘記しましょう。挿入句・挿入節は、初めは無視しましょう。頭が混乱する原因です。それらは文字通り、追加で挿入したものであり、つまり最悪、それは無くても大意に影響はないことになります。同様に、難しい副詞・形容詞も、知らない単語だったら当面、無視しましょう。大仰な副詞で気持ちが萎えないことの方が大事です。まずは大意を汲み取ることです。それが出来れば、副詞・形容詞も、大なのか小なのか、赤なのか白なのか、善なのか悪なのか、大体、想像できるようになります。

 そして長い文章ならとりわけ、ゆめゆめ後ろから訳そうと思わず、頭からぶったぎって、そのまま読んでいきましょう。上から順番に単語を頭の中で理解して行けば良いのです。


難解な英文も背景さえ知れば、こんなに簡単!

 ここで本連載の中では初めて、そしてたった一度、本格的な英語の勉強らしい勉強をしてみましょうか。これまで書いてきたメソッドを総動員して、下記の文章に挑戦してみましょう。脅すわけではないですが、この文章は、米国の国際法を学ぶ学生が読むテキストとして専門家が書いたもののごく一部です。
 日本では国際系の大学院の入試にも出されています。つまり非常に上級者向けの英文論文です。ネイティブでも全員がきっちりと理解できる保証は無いレベルだと思います。

 以前に、その文章が扱う話題に詳しければ、英語自体は問題無しと言いました。約束を守って、そのテーマについて解説しておきましょう。

 時は1999年の世紀末で、この年は、ヨーロッパで春先に今から扱うコソボ紛争(戦争)が勃発、アジアでは夏から秋にかけては東ティモールで独立を巡る住民投票から大紛争が発生し、世界はこの二つの国際紛争に翻弄された年でした。

 旧ユーゴスラビアは、冷戦後の1992年から始まり、95年にボスニア内戦が終結した旧ユーゴ紛争によって、六つの共和国はそれぞれバラバラになりました。コソボとは、かつて旧ユーゴスラビアを構成していたセルビア共和国の南部にある、モスレムのアルバニア系が多数を占める自治区の名前です。長年、ここでは少数派のセルビア系の人権が抑圧されていましたが、セルビアに強硬派のミロシェビッチ大統領が登場すると、アルバニア系の自治権を取り上げるなど、逆にアルバニア系に対して強硬な態度に出ました。紛争が激化するなか、和平交渉も頓挫、遂に99年3月、セルビアをコソボから撤退させるべく、アメリカを中心にしたNATO軍が対セルビア空爆に踏み切りました。次の英文は、以上を背景にしたコソボ空爆の是非を論じるものなのです。

FullSizeRenderコソボ.jpg










 コソボ空爆、被害を受けた警察関係の建物



The U.N. Charter does not permit a state or regional military organization to violate another state's sovereignty to prevent the slaughter of innocent civilians unless the state consents or the Security Council authorizes the intervention.

Until the Kosovo crisis, all prior interventions during the post-Cold War period had either the consent of the target state or the approval of the Security Council before the interventions actually took place. The NATO bombing of Kosovo, however, was different.

This is because the United States and its NATO allies knew that it would be difficult, if not impossible, to obtain Russian or Chinese support for a NATO bombing campaign against Serbia. Thus, the allies assumed authority over the conflict without the Security Council's approval, hoping that the Council would eventually support the effort.

Michael P. Scharf, The Law of International Organization, Carolina Academic Press, Durham, 2001

 まずは最初の三行から。文中で上級編で難しいと思える単語は、せいぜいsovereignty, slaughter, intervention, 高校レベルの英語で出てきたのではと思えるのが、innocent, prevent, consent, assume, あとは多少専門的な用語になりますが、Charter, Security Council 等々でしょうか。でも辞書を引くのはまだ無しにしておきましょう。

 そして初めから順に、長い文章はぶった切って見て行きましょう。自信が無い単語はしばしそのまま放置しておきましょう。

 「国連Charter は認めない/ 国家や地域軍事機構が、他国のsovereigntyを侵すことを/ innocentな一般市民のslaughterを防ぐために/ その対象国家のconsentがあるか、安全保障理事会がそのinterventionを許可したのでない限り

 まだちょっと一般論なので、分りにくい部分もあるかも知れませんね。
 これを先ほどのコソボを巡る背景説明に照らし合わせて補充して若干意訳すると、次のようになります。

 「国連Charter は認めない/ 米国・NATOが、セルビア共和国のsovereigntyを侵すことを/ innocentなアルバニア系市民のslaughterを防ぐために/ NATO空爆に対するセルビア共和国のconsentがあるか/ 安全保障理事会がその空爆interventionを許可したのでない限り

 こうなってくると、英語自体よりも、ここまでその言わんとする内容が分かってきて、自信が無かった単語も、うっすらとイメージは出来てきますね。Charterは、英単語の問題というより、社会問題の知識で、国連憲章ということです。
 Sovereigntyは発音も意味も難しい単語ですが、国家「主権」ということですね。株式投資などやられている方は、ソーブリンリスクということで、すでにご存じでしょう。広くは使われないけど、ある分野ではすでに日本語に入っている単語の事例です。Innocentも、「罪のない・無辜(むこ)の」ということです。辞書には「無邪気な」と言う意味があると思いますが、ここではしっくりきません。
 Slaughterは虐殺と言う意味です。さてconsentですが、是非、皆さんにはインフォームドコンセントという言葉を思い出して頂きたいです。医師から「正しい情報を伝えられた上での合意」ですね。となると、セルビア共和国のconsentは合意・同意ですし、最後のinterventionは、これこそラテン語起源の単語で、inter- (間に) venīr(来る)で「介入」ということですね。ラテン語を知らなくても、これなら第二外国語としてフランス語をかじったことがあれば、十分に分るレベルの話ですね。というわけで、とてつもない高いレベルの英文でも、いとも簡単に以下のように訳せます。

 「いくら罪のないアルバニア系市民の虐殺を防ぐための人道目的とはいえ、NATO空爆に対するセルビア共和国自身の同意があるか、それとも国連安全保障理事会がその軍事介入を許可したのでない限り、NATOがセルビア共和国の国家主権を侵すことを、国連憲章は認めない。

 さて次の4行です。

Until the Kosovo crisis, all prior interventions during the post-Cold War period had either the consent of the target state or the approval of the Security Council before the interventions actually took place. The NATO bombing of Kosovo, however, was different.

 すでに最初の3行を読んできて単語に慣れていますから、もう難しいと言える単語は無いでしょう。敢えて言えば、Priorに自信がない人がいるかどうか。
 でもドンマイ(don't mind)です。

 「コソボ紛争までは/ 冷戦後の期間のpriorの(な?)全ての軍事介入は/ 対象国の同意があったか、安保理の承認があった/ 実際に軍事介入が行われる前までに。コソボにおけるこの度の空爆は、しかし状況が違った。

 既に英文読解が、かなり簡単に思えませんか?文脈から明らかなのは、「コソボまでは、こうだったが、コソボで全てが変わった・・・」ということを強調しているわけですから、priorは、「以前の」「その前までの」と言う意味ですね。
 辞書を見なくても、文脈が教えてくれます。とうわけで、英文は以下のように翻訳できます。

 「コソボ紛争までは、冷戦後の期間のコソボ以前の全ての軍事介入において、実際に軍事介入が行われる前までに、対象国の同意か、安保理の承認があった。コソボにおけるこの度の空爆は、しかし状況が違った。

 この調子で一挙に読み終えましょう。分からない単語があるかも知れませんが、気にしないで読んでいく方法がすでに少しは身に付いたのでは?

This is because the United States and its NATO allies knew that it would be difficult, if not impossible, to obtain Russian or Chinese support for a NATO bombing campaign against Serbia. Thus, the allies assumed authority over the conflict without the Security Council's approval, hoping that the Council would eventually support the effort.

 「それは何故なら、米国とそのNATO同盟国が知っていたから/ ロシアと中国の支持を得ることが、不可能ではないにしても困難であろうということを/ セルビアに対するNATO空爆作戦に対し/ こうして同盟国は安保理の承認無しで、紛争に関する権限をassumeした/ 安保理がeventuallyにでも本作戦に支持を与えてくれることを期待しながら。

 もうすでにほぼ完全な訳文が完成していますね。二つの単語も、辞書を見るまでも無く、assumeは権限を「獲得し行使する」と言う意味でしょうし、eventuallyは、これからのことを言っているわけなので、「結局は」「最後には」「ゆくゆくは」などという意味であることは勘で分かりますね。というわけでより完成された訳文や以下のようです。

 「それは何故なら、セルビアに対するNATO空爆作戦に対してロシアと中国の支持を得ることが、不可能ではないにしても困難であろうということを、米国とそのNATO同盟国が知っていたからだ。こうして同盟国側は、安保理が結局、事後的にでも本作戦に支持を与えてくれることを期待しながら、安保理の承認無しで、紛争に関する権限を獲得し行使したのである。

 では全体をまとめて読んでみましょう。

 「いくら罪のないアルバニア系市民の虐殺を防ぐための人道目的とはいえ、NATO空爆に対するセルビア共和国自身の同意があるか、それとも国連安全保障理事会がその軍事介入を許可したのでない限り、NATOがセルビア共和国の国家主権を侵すことを、国連憲章は認めない。

 コソボ紛争までは、冷戦後の期間のコソボ以前の全ての軍事介入において、実際に軍事介入が行われる前までに、対象国の同意か、安保理の承認があった。コソボにおけるこの度の空爆は、しかし状況が違った。

 それは何故なら、セルビアに対するNATO空爆作戦に対してロシアと中国の支持を得ることが、不可能ではないにしても困難であろうということを、米国とそのNATO同盟国が知っていたからだ。こうして同盟国側は、安保理が結局、事後的にでも本作戦に支持を与えてくれることを期待しながら、安保理の承認無しで、紛争に関する権限を獲得し行使したのである。

 皆さん、難解な長文でも、メソッドさえ踏んで読めば、何も恐いものは無いことが、以上で良く実感していただけたでしょうか。あれほどの文章がほとんど辞書なしでも読めるのです。

 再度、読解の5つのポイントを列挙しておきます。

1 知らない単語に一喜一憂しない、辞書よりも、脈絡からおおよその意味を
  捉えよう!

2 特に副詞・形容詞などが分からないのは、大勢に影響なし、当面無視!

3 挿入句なども、混乱するようなら、当面無視!もともと追加的なものでしか
  ない!

4 長く繋がった文章でも、句読点とかでぶった切って、頭から順に読んで
  いく!

5 そのテーマ、内容に精通していれば、英語はもはや問題にはならない!

                                           (続く)


タイトル 『目から鱗! 気分を変えて英語に向き合う処方箋!』           ~ 理想や虚像に幻惑されないで、足元から着実に ~ 

千葉大学教授 小川秀樹 (国際社会論・グローバル人材論)

1956年生まれ。79年、早稲田大学政経学部卒業、ベルギー政府給費でルーヴァン大学留学。国連ESCAP(バンコク)、在イスラエル日本大使館勤務等を経て、横浜国大大学院博士課程修了。岡山大学教授等を経て、2016年より現職。

 著書に『ベトナムのことが3時間でわかる本』(明日香出版社)、『あなたも国際貢献の主役になれる』(日経新聞社)、『ベルギーを知るための52章』(明石書店)、『学術研究者になるには 人文社会系』(ぺりかん社)、『国際学入門マテリアルズ』(岡山大出版会)等、多数。

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