語源・類語から一挙に単語を増やそう!
前回は日本語に入っている外国語(英語を含む)と言う切り口で、どれほど沢山の英語や外国語を日本人が知っているかを明らかにしましたが、今回は一つの単語から連鎖的にどれほど語数を増やせるかという側面に焦点を当てます。語源・類語という観点に注目すると、それは可能になります。
語源や類語を活用、語彙は爆発的に増える!!
単語10個に限定して見て行きます。これらの単語も、日本語に完全に入っているものから選びました。まずは本連載冒頭で monotonous (単調な)という語に絡めて「モノレールやモノクロ」と言う話を出しましたので、それから初めてみましょう。
1 モノクロ
monochrome 単色・白黒のと言う意味です。この mono と言う「単一」を示す接頭辞からは多くの派生語が出来ます。monocoque モノコック・一体化ボディー構造、monocracy 独裁政治、monoculture 単式農法、monocycle 一輪車、monogamy 一夫一婦婚、monogenesis 生物の単一起源説、monogram 組合せ文字、monograph 特定分野の学術論文、monologue 独白劇、monomania 偏執狂、monopoly 独占・専売、monorail モノレール、monotheism 一神教、monotone モノトーン等々
2 フィードバック
すでに日本語です。元々、出力側から入力側へ再度、情報・エネルギーなどを戻すことです。Feed は元々、食べさせる・原燃料を供給するという意味。Feeder で、飼育者・エサ箱、支流と言う意味、feeding bottle で哺乳瓶、be fed up with ~で飽き飽きする。サッカーでも前のスペースに長いボールを蹴ることを(ロング)フィードといいますね。デートなどをしていて、相手に Please feed me! と言えば、ちょっと冗談めかした面白い空腹の表現になりますね
3 リテラシー
識字能力・読み書き能力のことです。最近ではメディアリテラシー、情報リテラシー、コンピュータリテラシー、会計リテラシーなどと範囲が拡大されつつあります。類語で重要なのが、literate 読み書きが出来る・教育を受けた(例えば computer-literal コンピュータに通じた)、その逆の illiterate 読み書きのできない、literal 文字通りの・逐語的な、literalize 文字通りに解釈する、literally 逐語的に・文字通りに、literary 文芸の・文学に通じた、literature 文学等々
4 オーバーラップ
overlap は重なり合うという意味ですね。Over は、限度を超えて・過大に・極端という意味で、まさに単語を量産する接頭辞ですね。以下、そのごく一部です。Overact 大袈裟に演じる、overall 全般に、overall majority 絶対多数、overbook オーバーブック・超過予約、overcast どんよりした・陰鬱にする、overcharge 高値をふっかける・盛り込み過ぎる、overcloud 一面に曇らせる、overcome 打ち勝つ、overcommit 必要以上にのめり込む、overconfidence 自信過剰、overcooked 焼き(煮)過ぎた、overdo やり過ぎる、overdrink 飲み過ぎる、overdue 期限を過ぎた、overestimate 過大評価する、overexposure 露出過度、overfeed エサをやり過ぎる、overflow 溢れる、overfly 領空侵犯する、overgrow 成長しすぎる・はびこる、overhand 上手投げ(打ち)の、overhang 覆いかぶさる、overhaul オーバーホール、overhead 間接費・諸経費、overheat オーバーヒート、overload 荷を積み過ぎる、overlook 見過ごす・大目に見る、overly 過度に、overnight 一晩・一泊の、overpass 陸橋・高架交差路、overpay 余分に払う、overpower 力で制圧する、overqualified 必要以上の学歴実績がある、overreach 行き過ぎる・策に溺れる・出し抜く、override 覆す、overrun オーバーラン、overseas 海外の・海外に、oversee 監督する、overshadowed 影を投げかける、overstay 限度を超えて長居する、oversupply 供給過多、overtake 追い抜く、overtask 無理な仕事をさせる、over-the-counter 店頭販売の、overthrow 政府などを転覆させる、overtime 残業・超過勤務、overweight 超過重量、overwhelming 圧倒的な、overwork 酷使する、overwrite 上書きする等々
5 メイキャップ
日本語では女性にとってはるかに馴染みがある言葉です。しかし make-up は、本来もっと広範囲で使われます。動詞なら、仕立てる・構成する・でっち上げる・化粧する・埋め合わせる等々の多くの意味があります。学校用語としては、追試験をするという意味すらあります。名詞なら、化粧品という意味もあるし、追試もあります。Made-up として形容詞的な語もあり、でっち上げた・人工的な・化粧したなどの意味です。Make を使った類語として面白いのは、make-believe 見せかけ・ふりをする人、makeshift 間に合わせの・当座しのぎの、made という形なら、read-made 既製品、made-to-order オーダーメイド、foreign-made cars 外国車、making となると、in the making 出来つつある・発達中のという熟語もあります。Peace in the making と言うと、構築されつつある平和ということです。
6 サーチャージ・サープラス
燃料サーチャージで普通に日本語になりました。付加料金ということです。Sur は super と言う意味で、surplus も余剰・過剰と言う意味で、deficit が反対語。例:trade surplus 貿易黒字, trade deficit 貿易赤字。下記も全部 sur で始まります。Surmount 打ち勝つ、surname 苗字、surpass しのぐ、surrealism 超現実主義、surrender 明け渡す・降伏する、surround 取り囲む、survey 調査する
7 サブ(スティチュート)
サッカーなどで交替や交替メンバーに使います。そもそも sub という接頭語は、「下」「下位」と言う意味があります。下記の通り、無限の拡張性があります。subacid 弱酸性の、Subbranch 支所・出張所、subconscious 潜在意識、subcontinent 亜大陸、subcontract 下請け契約、subculture サブカルチャー、subdivide 細分する、sublet 転貸する、submarine 潜水艦、subordinate 下位の、subsequent 続いて起こる、substance 物質・内容・本質、subtitle 副題・字幕、suburb 郊外、subway 地下鉄、等々
8 トランスジェンダー
最近は LGBT など transgender の人々が声を上げるようになり、性差が交錯し揺らいでいる時代です。Trans とは、「超えて」「通って他の側へ」「超越して」「向こう側の」などの意味があります。多くの類語があり、処理する transact、大陸横断の transcontinental、移す・移転する transfer、変貌 transfiguration、変形させる transform、注入・輸血する transfuse、翻訳する translate、伝達・伝導・変速装置 transmission、透明な transparent、移植する transplant、輸送する transport 等々
9 リストア
よく「古い車などをリストアして、乗れるようにする」とか言います。Restore という動詞には、もとに戻す、修繕する、再興・復旧するという意味があります。名詞形になると、restoration で、復旧・復位・修復などという意味です。Restoration でかなりの人が思い出すのが、明治維新 Meiji Restoration でしょう。最近、新しく設立された大阪維新の会が英語の党名を考えて、明治維新との脈絡で、restoration と言う語を採用しようとしたら、英語学者を中心に、大勢から疑問の声が上がり、党名の英訳を変更決定せざるを得ませんでした。Restoration とは、「復古」であって、「維新」ではないというわけです。明治「維新」も政治的には天皇制「復古」なわけです。付記すると、restore には、元気を回復させるという意味があって、フランス語のレストラン Restaurant はここから来ていて、もちろん英語にもそのまま入っています
10 プルーフ・エビデンス
証拠という意味です。Evidence の方が日本語により定着していますね。動詞は prove で、前章最後で映画「ジェーソン・ボーン」シリーズの話をした時、until otherwise proved(そうではないと証明されるまでは)という言い方を紹介しました。Proof には吟味、耐性という意味もあります。最後の耐性という意味合いで、よく使われるのは、防水 waterproof、防音 soundproof、日光を通さない sunproof、耐火 fireproof、防弾 bulletproof などという使い方です。他方、Proofreading となると、一転、印刷物などの「校正」という意味になります。
さて今回だけですでにいくつの英語の単語を目にしたか、お分かりでしょうか。総計約130個で、10個の英単語から13倍の単語を覚えたというわけです。
しかも前回の30語も含め、それらの40語は日常的に使われるより、少し難解な外来語を集めたということです。それよりもさらに日本語としてしっかりと根付いている簡単な英語は山ほどあります。アカウントやアドレス、カップルやデート、ホームやアウェイ、アップダウン、スマート・スリム・ファット、ダイエット、タフ、
シリアス、ドライブ、ドリンク、ターゲット、ペーパー、レター、ポスター、モーター、マシン、スペース等々、まさにありとあらゆる日常的な分野で英単語は無数にあります。中学校レベルの英語と言ってもいいですね。私たちは皆、中学校で必要とされる千とも二千ともいわれる単語数だけでなく、5千とも言われる高校卒業時に必要とされる単語のうち、そのうちの多くをカバーする何千もの英単語を初めから知っているのです。いやむしろ現実は、英単語や外来語が無いと、まさに日本語すら成立しないと言っても過言ではない程なのです。
結論➡ どれほど多くの外来語(英語)を日常の日本語として使っているかということ!すでに語彙の基礎は皆が自然と持っているのです。 (続く)
タイトル 『目から鱗! 気分を変えて英語に向き合う処方箋!』 ~ 理想や虚像に幻惑されないで、足元から着実に ~
千葉大学教授 小川秀樹 (国際社会論・グローバル人材論)
1956年生まれ。79年、早稲田大学政経学部卒業、ベルギー政府給費でルーヴァン大学留学。国連ESCAP(バンコク)、在イスラエル日本大使館勤務等を経て、横浜国大大学院博士課程修了。岡山大学教授等を経て、2016年より現職。
著書に『ベトナムのことが3時間でわかる本』(明日香出版社)、『あなたも国際貢献の主役になれる』(日経新聞社)、『ベルギーを知るための52章』(明石書店)、『学術研究者になるには 人文社会系』(ぺりかん社)、『国際学入門マテリアルズ』(岡山大出版会)等、多数。