どれだけカタカナ英語を使いますか?知っていますか?
「新アプリケーションのカスタマー向けプレゼンのパワポを作ってくれ。詳しいスペックとインストール情報は別途に。ただし担当スタッフが購入インセンティブについて、あまりコミットし過ぎないよう、しっかり営業ミーティングで事前ブリーフィングを頼むぞ!」
有り得ない会話?いえ、有り得るでしょう!
何と120文字のうち半分程度の58語がカタカナの外来語です!
さてここでは、例え英語から長らく離れている人であっても、日本人である限り、どれほど多数の、しかもかなり難しい英単語を日本語の中で知っているかということを実感していただきます。当然、グループとかビルディング、ヘルプとかビーチとかという、まさに日常語に入り込んでいる単語というよりは、一段と難しい単語です。中学英語というより、高校(大学受験)以上の英単語になるかも知れません。
今回は以下、30個の単語を、思いつくままに順不同で列挙します。これら30個の単語には、意味のみを簡単に付記しますが(必要に応じてのみ英語のスペルを加えます)、読み終わったら、知っていた意味以外の意味を新たに知ったり、派生語を知ったり、語彙力は確実に上がります。そもそもこんなに難しい英単語を、知らず知らずのうちに日本語のなかで知っていたのかと、愕然とすること請け合いです。
コミット(メント)(委任・付託・言質・関わり合い・遂行)
マンデート(指示・委任・授権)
リコール(想起能力・罷免・召還・撤回、不良製品の回収・無償整備のための
リコール)
インフォームドコンセント(医師から十分に説明を受けて、同意の上での
治療実施のこと)
サブとロジ(イベント等で、ロジ logistics は後方支援、内容に関わるのが
substance)
ホスト(主催者やホームステイ先・留学先がホスト。生物が寄生する先(宿主)も
ホスト)
ドネーション(寄付・寄進・贈与。臓器・血液提供側が donor、経済援助する側も
donor)
レシピエント(受け入れる側。上記 donor から受ける側)
オリエンテーション(方向付け・方向性。
political (psychological / sexual)orientation 等)
シーズニング(季節 season から派生、ただし意味は、調味や香辛料のこと)
オプション(選択権・選択可能物の意。Optional となると、選択的な・随意の
という意味)
アウトプット・アウトカム(単なる処理結果と、それに対して働きかけて得られた
成果)
アイデンティティ(いうまでも無くIDのこと)
オーソリティ(権威・権限。動詞オーソライズも日本語に入っている)
グラデーション(色などが漸次変化すること。等級・階級も示す)
スペック(正確には specification。明細・仕様・仕様書)
ブリーフィング(事前に簡潔な説明を受けること。活動終了後は debriefing)
フィージビリティ(実行・実現可能性のこと。feasibility study(FS)としてよく使う)
オブリゲーション(義務・責務・債務)
サステナブル(持続可能と言う意味で、sustainable development 持続可能な
開発)
バナー(旗・見出し。横断幕も。今やIT用語?)
メンター(メンターとは本来、単に先輩とかでなく、恩師のような立場にある
人物)
インストール(据え付ける。しかし Installment で分割払い、シリーズものの
一回分)
アントレプレナー(起業家。Entrepreneur、フランス語ではアントルプルヌール)
スイートルーム(「スウィート(sweet = 甘い)部屋」ではなく、Suite room で
「続き部屋」)
リバーシブル・ディタッチャブル(裏返し可能な reversible、着脱可能な
detachable)
ハラスメント(harassment。Academic, power, sexual と種類があります。)
タイアップ(tie-upは会社などが連携することで、Tie-inは抱き合わせ販売など)
レシプロ(エンジン)(reciprocating engine、大事な形容詞 reciprocal (相互の)
が派生)
オンディマンド(要求あり次第という意、他方、demanding は、厄介な、難しい
という意)
以上から私たちはどれほどの英単語、しかもかなり難解なものを日本語のなかで知っているかということが、実感できたことと思います。それらの一語一語について、それぞれ一つか二つ、派生語・類語を覚えるなら、あっという間に30個の単語から100個ほどの単語の知識が得られることになります。
しかもそれは実は英語だけの問題ではないのです。下記に日本語に入ったフランス語を50個あまり、列挙します。それらはすべて英単語にも入っていて、つまり私たちは、日本語となった仏単語を通じて、英仏両方の言語で知っているということになるのです。後の連載で少し詳しく述べると思いますが、英語とフランス語は語彙的にはかなり直結していて、どちらかを覚えれば、相互に理解を分かち合う関係にあるのです。
フランス語からの借入語を単語のみ、まったく順不同、思いつくままに列挙します。平均的な大人なら全部、知っているであろうレベルの単語です。
レジュメ、モティーフ、ナイーヴ、アトリエ、アンケート、コンクール、グランプリ、コンシェルジュ、サボタージュ(サボるの語源)、カモフラージュ、モンタージュ、パトロン、アベック(最近、すたれつつありますが)、ランデブー、シルエット、ラルクアンシエル、エチケット、ニュアンス、トラバーユ、デジャヴュ、アンツーカー、ボンネット、シャシー、メゾン、ブーケ、アンサンブル、プレリュード、シャンソン、バカンス、プロムナード、アベニュー、グルメ、アントレ、オードブル、アラカルト、アラモード、ソムリエ、ポトフ、ピーマン、オムレツ、カフェオレ、カロリー、ブティック、パンタロン、プレタポルテ、アヴァンギャルド(前衛的な)、アンティーク、オブジェ、ジャンル、クーデタ、ブルジョワ等々、本当に無数ですね。
ついでにオランダ語は、カバン、ヨット、デッキ、ゴム、カン、ビール、コーヒー、スコップ、ズック、ピンセット、メス等々、日常用語として広範囲にわたり多数存在します。面白いところでは、ドイツ、ベルギーなどという日本語の国名もオランダ語から来ています(もっとも日本語のオランダという国名はポルトガル語からですが)。博多の祭りの「どんたく」もオランダ語の zontag 日曜日が訛ったものだとされます。しかしこれらは、日本語として定着し過ぎていて、英単語習得にさほど直結しないので(場合によっては混乱をもたらす)、これ以上列挙しません。
アレルギー、ガーゼ、カルテ、コラーゲン、ツベルクリン、アンチテーゼ、シュプレヒコール、メルクマール、カルテル、コンツェルン、タクト、ヒンターランド、ゲレンデ、アイゼン、ザイル、ヒュッテ、リュックサック等々、医科学、社会思想、登山用語等に多いドイツ語も然りで、これ以上、深入りしません。
さて、モットー、フレスコ、レプリカ、マニフェスト、マラリア、インフルエンザ、カジノ、オペラ、アレグロ等、イタリア語から来た単語、アミーゴ、パティオ、シェスタ、フィエスタ、エルニーニョ等、スペイン語から来た単語、ブランコ、ボタン、カボチャ、カッパ、カルタ、ビスケット、カステラ、金平糖、天ぷら、たばこなどポルトガル語から来た単語なども散見されます。
ついでに議論を少しだけ広げると、文語的な固い表現が多く、馴染みが多いとは言えないラテン語も、フランス語や英語を通じて間接的に来ている単語も含まれますが、重要なものもありますね。データ、アイテム、フォーミュラ、カレンダー、フォーラム、キャンパス、ヒーロー、ボーナス、ウィルス、エトセトラ、アドリブやアドホックなどに加え、バーサスversus (○○ vs.○○)なども、最近では対戦相手を示すときに日本語で普通に使います。パラドックスやパラダイム、パラレル等、ギリシャ語に起源を持つ言葉も少なくありません。
フランス語でもオランダ語でも、またドイツ語やポルトガル語やその他でも、英語以外で、どれほど広範囲に外国語が入り込んでいるかと認識することは大事です。強調したいのは、上に30個の英単語を上げましたが、それに付随してその数倍の単語を習得することは比較的、簡単だという事実です。フランス語でもドイツ語でも、第二外国語を学び始める時に、すでに日本語に入っていて知っている単語を突破口にするという教育手法が注目されています。
すでに誰でも知っている単語から、その数倍の語彙力をいとも簡単に獲得できるからです。 (続く)
タイトル 『目から鱗! 気分を変えて英語に向き合う処方箋!』 ~ 理想や虚像に幻惑されないで、足元から着実に ~
千葉大学教授 小川秀樹 (国際社会論・グローバル人材論)
1956年生まれ。79年、早稲田大学政経学部卒業、ベルギー政府給費でルーヴァン大学留学。国連ESCAP(バンコク)、在イスラエル日本大使館勤務等を経て、横浜国大大学院博士課程修了。岡山大学教授等を経て、2016年より現職。
著書に『ベトナムのことが3時間でわかる本』(明日香出版社)、『あなたも国際貢献の主役になれる』(日経新聞社)、『ベルギーを知るための52章』(明石書店)、『学術研究者になるには 人文社会系』(ぺりかん社)、『国際学入門マテリアルズ』(岡山大出版会)等、多数。