英語って、それでいいんだ!?
英語って、言ったもの勝ち?どうとでもなる言語?
さて次に、英語の素性に関わるお話です。後で少し詳しく触れますが、英語はもともとは北ドイツ方面のゲルマン語が、大陸を離れブリテン島に渡り、その後、多くの言葉と混ざり合い、影響しあった結果、出来上がった混成語です。
もっとどぎつく言えば、ゲルマン語がさんざん凌辱された、なれの果てとも考えられます。本来的に簡略共通語のような色彩を帯びていて、それゆえ合成語や新語・借入語に寛容です。つまり歴史が古く、ガチガチに固まった言語ではなく、通じれば良しとする便利な言葉なのです。
そうした英語の特性である、考えすぎないで、「言った方が勝ち」という典型例を以下、示しましょう。
最近では良く聞きますが、「Long time no see!」(お久しぶり!)って、文法的にも変な英語だと思いませんか?こうした一風変わった英語を使うのを躊躇うネイティブスピーカーも大勢います。何故なのでしょう?それはもともと中国人が使った変な(?)英語がそのまま英語に定着したからなのです。中国人は、「好久不見(没見とも)」と言うつもりで、そのまま単語を英語に置き換えただけですね(「好」は中国語では多いという意味)。でも中国英語が本物の英語の中に堂々と進出、定着したわけで、それはそれで良いのです。
もちろんこの機会に、より本来の綺麗な英語らしい表現も知っておいて悪くはないですね。It's (It has) been a while! とか It's been a long time! と言う方が、英語らしいと言えば英語らしいです。どちらも後ろに続くsince we last met が省略された形です。We haven't seen you lately! などとも言えます。さらにはもっとシンプルに、Good (Glad) to see you again! と言うことももちろん可能です。
でもいずれにしても Long time no see のような、ちょっと変な英語も取り込んでしまう度量の広さが、英語にはあるということです。
次に、今度は日本語のある表現の英訳ですが、「先着順」というのを英語で説明しようと思っても、単語を知らなくて頭が真っ白に・・・となる人は多いでしょう。でもそこで頭が真っ白になるのではなく、こう考えましょう。「さて「先着順」という日本語すら知らない日本の子供に、どう説明しようか?」そしてそれをゆっくりと子供のように一語ずつ中学英語(いや、小学校英語??)で口に出してみませんか?要するに「先に来た人が、先に得る(貰う)」と。難しく考えないで、最もシンプルに。「えーと、First come, First 何とか」。そう、それでいいのです。
後段を「First get」と不正確に言ったところで、相手は理解してくれます。
いや、「First come, ・・・ 」と言い出したところで、相手はすでに分かっています。もちろん「First-come-first-served basis」と完璧に言えればそれに越したことはありませんが・・・。要するに英語は、子供のような素直な気持ちで、簡単な単語でとにかく言い出せば、何とか形になる便利な言葉なのです。
正しい語順とかイントネーションなどというのは、またその後の問題です。
英語も日本語のセンス次第?
ちょっと真面目な文章を読んでいて、「Conservative estimate」という単語に出くわしました。Conservative や estimate という単語をそれぞれ知っていて、その意味がすぐに思いつく人はすでに上出来です。社会系の人なら、政治の世界では保守党と言う場合に、Conservative Party と言うことをご存知の人も多いでしょう。でも保守党を思いつかず、そんな単語があったなあ・・何だったけなあ・・でも良いのです。その場合は、辞書を引くのでなく、想像力を巡らせましょう。
発音からして「コンサバ」という、すでに日本語になった言葉に似ています。
では「コンサバ」って何でしょうか。ファッションなどで、コンサバなスタイルとか使いますね。辞書的に言うと、「保守的な」ということです。トラディショナル(トラッド)とかオールドファッションとも近いかと思います。Estimate は、「見積もり」と考えましょう。
すると Conservative estimate は辞書的には「保守的な見積もり」となりますが、その訳では日本語として馴染まず、ちょっと変ですね。ではどうすればいいか。言い換えて「控えめな見積もり」とすれば、しっくりきます。「コンサバ」から conservative の意味を類推したり、「保守的な」から「控え目な」と言い換えるセンスは、英語力というより日本語力です。そうです、英語力は日本語力に大きく関わってくるのです。
Conservative が分かったついでに、類語も少し見ておきましょうか。基本形はConserve で、保存・保護する、維持するという動詞です。ラテン語、フランス語を経て英語に入っています。名詞になると、Conservation となり、保存・維持という意味になります。歴史的建築物の保存とか修復とかという意味でよく使います。しばらく前に東京駅が大工事を経て、戦前の三階建ての姿に戻されました。それが修復ということです。他の名詞形として Conservator は保存者、管理者であり、形容詞が Conservatoryで、保存上の・管理者のという意味になります。でもこの最後の形容詞形は、同時にフランス語のコンセルバトワール conservatoire という音楽(芸術)学校と同じ意味になります。何と「コンサバ」「修復」「音楽学校」がここで一本に繋がったのです。要するに古い考え方や伝統、技能を守っていくのが、保守的ということなのでしょう。
さて次の事例は、新聞や雑誌のページの上の部分や右辺り、さらに下の部分に小さい写真が4,5枚、掲載してあると想像して下さい。そして写真の説明(キャプションと英語(caption)で言います)が、一枚ごと、それぞれの写真の下側にあるのでなくて、ページの文末にまとめて書いてあったとします。その説明の冒頭で、Clock-wise という単語が出てきました。さあ、これは何のことでしょう?
写真が Clock-wiseって、どういうこと???
クロックとは時計ですね。これはもう日本語になっています。時計が分かったら、このキャプション中の clock-wise も分かったも同然です。「写真は左上から時計回りに・・」と言う場合の「時計回り」ということです。こうして、仮に初めて見た英語の言い回しでも、状況から考えれば自然と分かってきますね。
ここで wise の使い方が出てきたついでに、likewise(同様に)、sun-wise(太陽と一緒の方向に)、Time-wise(時間的には)、Money-wise(お金的には)、budget-wise(予算的には)、cross-wise(十文字に)とかも一緒に知っておきましょう。いつでも使えそうな、日常生活で使い勝手の良い表現ですね。これくらいはわざわざ覚えるというまでもないでしょう。 Wise ということでは、Otherwise(そうでないなら、そうでないと)という単語があり、「You should go now, otherwise you may lose that chance.」(すぐ行きなさい、じゃないと、そのチャンスを失うかもね)と使えます。さらにはお堅い法律的な表現ですが、unless otherwise specified(provided for)(他に特約が無い限り)という表現があり、契約など文語的な表現ですが、日常的にも結構使えます。これだけでも、あなたは「wise」がついた単語は、語彙的には(vocabulary-wise)十分詳しくなったはずです。
ところで皆さんは有名なマット・デイモン主役の人気のハリウッド映画「Jason Bourne」シリーズをご存知でしょうか。「The Bourne Identity」、「The Bourne Supremacy」、「The Bourne Ultimatum」、「The Bourne Legacy」、「Jason Bourne」の五部作です。Bourne の後に続く単語だけでも並べてみれば勉強になりますね。それぞれ、identity アイデンティティ、supremacy 至高性、ultimatum 最後通牒、legacy 伝説と言う意味です。
マット・デイモン演じるジェーソン・ボーンがCIA(中央情報局、ただし英語ではCentral Intelligence Agency)から人間兵器に仕立て上げられて(その間の記憶は抹消されている)、政治的な暗殺等、汚い仕事に就かされるわけですが、そのうちジェーソン・ボーンが自分がこんな仕事をさせられている経緯を知りたくて、訓練を受けた研究所に戻るというシーンがあります。その時、CIAの側では、この極秘の人間兵器計画が発覚するのを恐れ、ジェーソン・ボーンの記憶を辿る試みを阻止しようとします。ジェーソン・ボーンはまさにCIAにとって危険人物となったかに思えたわけですが、いや、まだ完全に敵となったわけではないとCIA内部で議論が戦わされます。そうしたなか、CIA長官が、「ジェーソン・ボーンを、そうではないと証明されるまでは(until otherwise proved)危険人物とみなす」と発言します。私などはその場面、見とれて(聞き惚れて)しまいましたが、もともと賢いという意味の wise は、その応用編を知っておけば、まさに賢く、かつ格好良く使えるものですね。 (続く)
タイトル 『目から鱗! 気分を変えて英語に向き合う処方箋!』
~ 理想や虚像に幻惑されないで、足元から着実に ~
千葉大学教授 小川秀樹 (国際社会論・グローバル人材論)
1956年生まれ。79年、早稲田大学政経学部卒業、ベルギー政府給費でルーヴァン大学留学。国連ESCAP(バンコク)、在イスラエル日本大使館勤務等を経て、横浜国大大学院博士課程修了。岡山大学教授等を経て、2016年より現職。
著書に『ベトナムのことが3時間でわかる本』(明日香出版社)、『あなたも国際貢献の主役になれる』(日経新聞社)、『ベルギーを知るための52章』(明石書店)、『学術研究者になるには 人文社会系』(ぺりかん社)、『国際学入門マテリアルズ』(岡山大出版会)等、多数。