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2016年09月11日
【普通の本屋 を続けるために/第7回・一冊に賭ける仕掛け売り】 久禮亮太
ただ積むだけでは2~3冊、
良くても10冊売れ止まりの1タイトルを、
置き方とコメントの妙で50冊、100冊売れと
化けさせるのが新刊書店の醍醐味です。
古書店は「値付け」の巧みさで儲けますが、
新刊書店は数を化けさせる博才を問われます。
◆第1回:「ごあいさつ」
http://www.asuka-g.co.jp/event/1603/007768.html
◆第2回:「まず、荷物を開けてみよう」
http://www.asuka-g.co.jp/event/1604/007871.html
◆第3回:「スリップを読み解いて、お客さんを知る」
http://www.asuka-g.co.jp/event/1605/007907.html
◆第4回:「棚と平台を理解するために」
http://www.asuka-g.co.jp/event/1606/007944.html
◆第5回:「棚前の平積みこそが売上をつくる!」
http://www.asuka-g.co.jp/event/1607/007997.html
◆第6回:「平台を編集する」
http://www.asuka-g.co.jp/event/1607/008053.html
●「化けさせる」が新刊書店の醍醐味
仕掛けの候補は、新刊か既刊かを問わず、
いつも探しています。
いつも探しています。
気になる本が目に止まるたび、
「もしかして仕掛けたら大当りするかも
→エンド台でそこそこ売れるかも
→棚前で案外売れるかも
→棚で誰か買うかも」
といった順で瞬時に想像を巡らします。
もちろん、他店でも売れ始めた新刊は
追いかけて仕掛けます。
出版社さんの広告や書評、
パネルPOPなどといった販促物も利用します。
しかし、「どこでも売れる出物」は
頻繁には出てきません。
いざ出てきたときには、
重版が追いつかない、出荷調整が入る。
初版部数が少ない新刊を仕掛けると、
自店で順調に売れていても、
市場全体で並の売れ方では重版がかからず、
出版社に返品もまだ戻ってこず、補充できない。
そうなると、仕掛け台が空席になりがち。
やはり自店発のベストセラーを作ることが必要です。
●売れ筋をキャッチする網
オリジナルのヒットといっても、
勘やセンスで生むわけではありません。
売れる要素を一つでも多く兼ね備えている本や、
一点突破できる強力なテーマ性を持った本を
キャッチするアンテナを、日常の仕事の中で
張り巡らすことで生まれます。
毎日の新刊・既刊で売れそうな本に出会ったら、
その理由を要素に分解しながら、
過去の売れ筋と紐付けます。
第一印象のまとまりの良さ、
テーマ性と価格やページ数のバランス、
著者や担当編集者の経歴や既刊、
出版の意図、似た企画の成功例があるのか。
文庫なら、親本はどんな売れ方だったのか。
このような縦糸をいくつも貼っておきます。
縦の糸を増やすために、
奥付やスリップ回転数、目録、
NOCSやTONETS、Amazonなどの書誌リンク、
大きなPOSデータを深掘りします。
出版社の営業さんが紹介してくれる
既刊や重版情報も重要です。
新刊案内ついでの併売おすすめタイトルや
他社の類書の方が、むしろ新刊より
仕掛けの主役になるかもしれません。
他社の類書の方が、むしろ新刊より
仕掛けの主役になるかもしれません。
一方、毎日の売上スリップで横糸をつないでいきます。
この本の背後に縦に連なる既刊たちを、
お客さんたちのジャンルを横断した買い方を参考に
関連付けます。
横糸になるのは、お客さんだけではありません。
様々なジャンルで気になる本たちを作ったのが、
ある一人の編集者だったとしたら、
その人物という横糸でつながるラインも見えます。
あとがきの謝辞も品揃えに役に立ちます。
多くの候補からどれを仕掛けるかを決めるのは、
現物の印象と、積む場所と周囲の関係と、
場所の時間的な経緯です。
理屈の上では売れそうでも、
カバーがどこか時代遅れ、
現状の売れ筋とキャラがバッティングする、
触ってみると何度も返品改装を経て
天がグラインダーでガリガリに削れているなど、
「あれ?ちょっと待てよ」
と考えてしまう本もあります。
もちろん、それでもコメント力で売ることもありますが、
他の候補と差し替えることが多くなります。
● 際立たせるコツは引き算思考
便利な道具は、丸椅子です。
ワゴンは置き場を限定されますが、
椅子ならお客さんの動線や視界に合わせて、
エンド台の最前列の角やレジ横、
店外など小回りが利き、千円で買えます。
平台の中に組み込むと埋もれがちで、
平積みの高さで表現しようと
盛りすぎて在庫が嵩みますが、椅子なら
そこそこの在庫でも大きな表現ができます。
そこそこの在庫でも大きな表現ができます。
仕掛けるというと、
つい初回から50冊、100冊と
大きな数でオーダーしがちです。
しかし多くの場合、
視覚上必要な量感があって、
切らさないだけの数を積めば
いいのではないでしょうか。
「大きな演出=たくさん積む」
とは限りません。
重要なのは、他より際立っていること。
エンド台では、最前列の角か、
最後列の中央を箱で
特設ステージのようにして積みます。
いくら多面でモリモリに積み上げても、
同じ平台に同じようなボリュームの
商品が並んでいると、
1点集中の効果が出ませんし、
逆に全て1面で積むと情報過多で、
これものっぺりとしてしまいます。
たくさんの荷物に追われる日常では、
つい平台に置き切れば良しとしがちです。
しかし、僕たちの仕事は荷物を捌くことではなく、
売れるように「盛り付ける」ことです。
売れると見込んだものを目立たせながら、
そこに芋づる式につながって売れるものを配置する。
仕掛けの単品を売り伸ばすことと、
ついで買いの客単価を引き上げること、
そのバランスとメリハリが大切です。
ついで買いの客単価を引き上げること、
そのバランスとメリハリが大切です。
その過程では、
よその平台でも売れるものを
正しく外すことと、周りの山を低くする
「引き算思考」がいつも問われます。
「引き算思考」がいつも問われます。
外した平積みを引き受ける棚前平台でも、
様々なテーマの群れがバランス良く
配置されるために、肥大化した群れを間引く
「引き算」が大切になるのです。
配置されるために、肥大化した群れを間引く
「引き算」が大切になるのです。
● 「POP」と「積み方」と「場所」の3点セット
POPやパネルの効果的な使い方については
出版社さんで印刷した既製品か、
こちらで手書きしたコメント、
どちらが効く効かないというよりは、
仕掛け書目との兼ね合いや、周囲とのバランス、
場所の経緯で使い分ければ良いと考えています。
多様な客層に恵まれた一等地であれば、
世間で広く売れている雰囲気を伝える
既製POPが有効、
担当者の思いで売り込む小説なら
手紙のような手書きコメントが似合います。
ビジネス書では、言い回しや文字の級数、
キャッチ・コピーとボディのレイアウトを工夫し、
お客さんの知りたいことを独自の視点で要約した
機能的なPOPが効果的だと感じます。
仕掛けは、
・POP/パネル
・それにふさわしい積み方
・その内容にふさわしい場所
の3つが揃うと、結果が出ます。
当たり前とも思えることですが、
忙しいなかでは案外できないものです。
積んだだけでパネルが間に合っていない、
POPも準備したのに一等地での展開ができずに
中途半端な場所に積んでしまう...。
こうしたことは起こりがちです。
しかし、仕事の優先度でいえば、
少ない手間で多く売れる仕掛け売りは
一番に取り組みたい仕事ではないかと思います。
◆久禮 亮太 (くれ・りょうた)
1975生まれ。高知県出身。元あゆみBOOKS店長。
現在はフリーランスの書店員「久禮書店」の店主として、ブックカフェの運営や新刊書店の棚作り、スタッフ研修に携わっている。
◆本連載は、書店向けDM誌 『明日香かわら版』 の記事をもとに再構成したものです。毎月の更新で、全10回の予定です。