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2016年06月02日
【普通の本屋 を続けるために/第4回・棚と平台を理解するために】 久禮亮太

私たちが目指すのは、動きがあってバランスのとれた売り場作りです。新刊既刊、何年でも売り続けるロングセラーと1ヶ月で売り抜ける話題本、新たな出会いを演出する意外性と目的の本が見つけやすい機能性、その両立を日々模索しています。


第1回:「ごあいさつ」
http://www.asuka-g.co.jp/event/1603/007768.html
第2回:「まず、荷物を開けてみよう」
http://www.asuka-g.co.jp/event/1604/007871.html
第3回:「スリップを読み解いて、お客さんを知る
http://www.asuka-g.co.jp/event/1605/007907.html


●お店の新陳代謝

そのためには、二つの重要なことがあります。

一つ目はお店全体を広く捉えて新陳代謝させること
です。棚で売れの止まったものを確実に発見して
間引き、次に伸びる芽を見つけて平台におろします。
平台の土壌を豊かにするには、安定して売れ続ける
ロングセラーをコツコツと増やしておきます。

二つ目は「売り場に出すものには数字を入れる」
いうことです。棚に挿すときに、スリップに日付を
入れ、平積みや面陳を置くときには一番うしろの
一冊のスリップに日付と積んだ冊数を記入します。
追加の入荷を積み足すときには、その数も加えて
いく、という感じです。

この手順を省いてしまったら、判断に迷って時間を
ロスするか、大雑把な判断で売上をロスするかの
どちらかになってしまいます。
毎日忙しく手を動かしながらも、何が売れていない
のかを的確に把握するには、スリップに数字を書く
ことがもっとも確実で安価な方法です。(POSシス
テムの使い道は、また別のところにあります)

数字をつけて観察していると、まず棚前の平積みの
多くが「驚くほど売れていない」ことがわかるはずです。
レジ前の平台や通路沿いのエンド台でも、前列は
ともかく隅のほうには、売れの鈍いものがいくらでも
あります。大抵の書店はそうです。まんべんなく売れ
ているなら、もっと儲かっているはずです(笑)。


●抜き方と置き方

この売れていないものに占有されているままの
平台の1マス1マスを、売れる状態にコツコツ
置き換えていくときに、大切なのは「正しく抜く」
ことです。
棚でも平台でも、上下左右を広く見渡して
スリップの数字をチェックし、もっとも売れていな
いものを棚から外します。忙しいと、目的の場所
の近辺で手っ取り早く片付けがちです。
いつもそうしていると、コロコロ品物が変わって
空回りする場所と売れないまま停滞した場所の
ムラができてしまい、単位面積当たりの売上は
どちらもあがらなくなってしまいます。

次に抜いた書籍を安易に返品する前に、より
正しい置き方がないかと考えることです。
分類法的に正しいか、棚番号の割り当て通りか
ではなく、その本に最もふさわしいシチュエー
ションでお客さんに提案できたかです。
いつもの置き場に積んだきりではなく、お客さん
を挑発する組み合わせを何通りか考えて、
置き方を流動的に捉えるのです。いざ売れる
ツボにはまったら、テコでも動かないくらいに根を
張ることも大切です。

置き場所を探るときには、マクロとミクロ、両方の
視点を持たなければなりません。
まずは目の前の棚が、お店全体の地図の中で
どういう立地にあるのかと俯瞰します。
次に平積みの1点1点が何日間で何冊売れている
のか、あるいはまったく売れていないのか、上下
左右の隣り合う書籍とのつながりは正しいのかなど
細部を正確に捉えます。


●書店の中はひとつの街

どんな規模やレイアウトのお店にも、表面的な
ジャンル配置とは別の、最適な使い方や意味付け
の売り場地図があるはずです。
書店の中はひとつの街です。目抜き通りに面した
一等地の平台から路地裏の隠れ家のような棚まで、
この書店という街におけるそれぞれの立地に
見合った家賃(求められる販売冊数)や、そこを
訪れるお客さんの意識があるはずです。

お店の顔とも言えるメイン島平台は、様々なお客
さんが行き交います。ここには、もちろんその時々
のベストセラーが集結している必要があります。
それだけではなく、ジャンルや客層を絞らずに多様
な読者に仕掛けたいもの、お店の顔として第一印象
やムードを表現する本といったオールスターが
集まる場所です。
ここは一等地ですから、相応の地代=売上を出さな
ければいけません。家賃を稼げない本は、他所へ
引っ越すか、ここに居続けてもいい理由が必要です。

ビジネス書のエンド台は、ビジネス・パーソンの行き
交う場所です。みんな仕事モードで、個々人のスキル
やキャリアのことから政治や経済の世界情勢まで、
有益な情報を求めています。
そんな人々に、英会話や健康法、人生を問い直す
哲学を差し出すような置き方もあるでしょう。

重要なのは、「品揃えの動き」でお店の奥までお客
さんが足を向けるための流れを作り出すことです。
前寄りの平台だけで片を付ける小手先の品出しでは
なく、それぞれの場所に売る力を持たせて、奥の棚前
にも何かあるという期待感を作ることです。
新刊だからレジ前の新刊台に置き、押し出された先月
の新刊が各ジャンルの棚前平台に、棚前平台の古い
ものから棚挿しにと単純にはいかないのです。


●目的の定まった売場

エンド台からサイドの棚前を奥に進んでいけば、路地
のような場所です。ビジネス棚なら利殖や土地活用、
相続といったなんらかの目的を持って探しに来るよう
なものを置きます。それはここまで訪れるお客さんの
人物像が、なんとなく見えるからです。
このように目的の定まった売り場は、いつも同じような
新刊の配本を積みっぱなしでよどんだ場所になりがち
です。このジャンルの定番書を探して自力で置き換え
ていくことや、この場所だからこそ売れる面白い本で
遊びを表現することが必要なのです。

次回は、より具体的に、細部と全体を行き来しながら
品物を動かす売り場作りを考えましょう。


◆久禮・亮太 (くれ・りょうた)

1975生まれ。高知県出身。元あゆみBOOKS店長。
現在はフリーランスの書店員「久禮書店」の店主として、
ブックカフェの運営や新刊書店の棚作り、スタッフ研修
に携わっている。
月・水・金曜は4歳の娘と一緒に家族の仕事を、
火・木・土曜は外で書店の仕事をこなす毎日。

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◆本連載は、書店向けDM誌 『明日香かわら版』 の
記事をもとに再構成したものです。
毎月の更新で、全10回の予定です。


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