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2016年03月02日
【普通の本屋 を続けるために/第1回・ごあいさつ】 久禮亮太

●すべては「普通の本屋」を続けるために


初めまして、久禮亮太@ryotakureです。

これから10回にわたり新刊書店に関わるみなさんと、
あらためて毎日の仕事の意味を考えてみたいと思います。

おしゃれなブックカフェやセレクトの効いた独立系書店、
家電とコラボした大書店など、きらびやかな新業態が
相次いで登場して、注目が集まりがちです。
もちろん、僕自身もそんなチャレンジに参加していきたい。

しかし、
本と読者の日常にとって一番大切なことは、
身近な「普通の書店」が一軒でも多く、

今よりちょっとずつ面白くて役に立つ存在になって、
存続することではないか
と考えています。

掃除、接客、品出し、注文、返品......そんな日常の
手仕事のひとつひとつを、もういちど問い直して、
自分の技術として確かに身につける。

本と読者と自分の生活にとってこれからも本当に役立つ仕事と、
いっそ捨ててしまってもいいこと、
現代的にアレンジできることを、ふるいにかけてみる。

商売の環境が変わっても読者から求められる本屋とは何かを、
あらためて共有したい。

この連載では、そんなことを目指します。

僕は、新刊書店チェーンのあゆみBOOKSに
およそ18年間在籍したのちに退職し、ちょうど40歳を迎える
2015年の初めからフリーランス書店員「久禮書店」として
活動を始めました。

現在は、2つの新刊書店ブックカフェの運営に参加しつつ、
無店舗の書店主として本を仕入れて出張販売をする業務、
様々なご依頼に応じて選書をする業務を行っています。
また最近は、いくつかの新刊書店でスタッフさんの勉強会に
参加して講師をすることもあります。


●本屋の仕事の本質を考える


書店の品出しや棚作りでは、膨大な新刊・既刊を
うまく組み合わせて、思わず買いたくなる面白さを
棚で表現するために、毎日の売上スリップを適切に
読み解いて、それを買ったお客さんの「心を読む」
ことが大切です。

一冊の本は著者をはじめ多くの人が関わって
製品となりますが、僕たち本屋は、いちばん川下で
その仕上がりを待っているに過ぎません。
ただ、お客さんが財布の口を開ける瞬間という
リアルに触れているのは僕たちだけです。

なぜ買ってくれたのか、買ってくれなかったのか。
自分の選書と積み方 がお客さんを刺激して
爆買いさせたのかもしれないし、店内整理が足りず
散らかった平台でげんなりさせたために
何も買わなかったのかもしれません。

その現象ひとつひとつの原因を考え、次の手を打つ。
またその結果を一冊一冊の売れ数と売れ方から明らかにする。
そんな小さな仮説と検証のサイクルを繰り返していくのです。
棚を介して、ときには直に言葉を交わして、
お客さんと繊細で濃密なコミュニケーションをとる。

それが本屋の醍醐味であり、仕事の本質だと思います。


●「荷物に気持ちが負けない」ために、コツがある


今多くの新刊書店の現場の実情は、そんな理想とは
かけ離れた問題を沢山抱えています。
僕自身が経験してきた売り場もそうでした。

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コミックの新刊も入っているし、
同時に書籍の注文品と新刊で箱が30箱はある。

それなのに早番のアルバイトと自分の二人だけで、
すべてをお昼までにやっつけなければいけない。

午後から出社してくる遅番の同僚はまだ新人で、
とりあえず文庫と資格・語学書だけを担当している。

ほかのジャンルのことも教えなければいけないけど、
付き合ってあげる時間は自分にもないから、
とにかく今は新書もビジネスも文芸も全部自分でやるしかない。

おまけに夜番のアルバイトがドタキャンで、
返品まで自分でやらなければいけない。

そんな状況なのに、本部の上司が電話してきて
「売上前年比をあと5%は戻せよ」などと
ざっくりとしたことを言ってくる。

そんなこんなでムカムカしたままお客さんの
問い合わせを受けて、つい冷淡にあしらってしまって......。

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よくある日常です。

僕はこう思っています。
「荷物に気持ちが負けなければ、なんでもやれる。」

これは、根性論ではありません。
どんなに雑務が多く時間と人手が不足している状況でも、
自分なりの仕事の手順や意図を見失わないで手を動かして
いれば、なんらかの優先順位をつけて乗り越えられます。

また、修羅場をなんとかやり過ごした後に、
正しく棚や平台を立て直せば、自分自身の体調や気分、
お店の売上や品揃えの質を大きく落としたまま
回復できないなんてことはない。

つまり、「仕事のロジックを見失うな」と言いたいのです。

反対に、棚や平台の書籍ひとつひとつの売れ方や
自分の作業の目的に曖昧さを抱えたまま雑用に忙殺されれば、
そんな「やらされ感」には、誰だってうんざりしてしまいます。

正しく返品するロジックや
正しく売れる積み方の工夫がなければ、
売上は当然失われます。

そこで大雑把なやり過ごし方を続ければ、
なおさら仕事の曖昧さが増大します。
この悪循環は僕たちの心に大きなストレスをかけますし、
そんな心の中はお客さんも容易に察せられて、
お店の印象をも大きく減じてしまいます。

店内を清掃・整理する、注文品の箱を検品する、
新刊をチェックする、レジに入る、売上スリップを読む、
品出しをする、返品を抜く。

そういった日常的な作業のひとつひとつに、
速くかつ正しくおこなうコツがあります。
それだけでなく、そんなルーティーン・ワークから、
つい見逃しがちな「兆し」を読み取る方法 があります。
そこには、精度の高い売り場作りの根拠や、
お客さんの気持ちに寄り添う品揃えのヒントが隠されています。


●教え合い、学び合う関係を作りましょう


もちろん、みなさんの現場にもそれぞれ、
いろんなやり方があるはず。
僕のやり方よりずっと良い工夫もあるに違いありません。

大切なのは、自分の仕事を言葉におこして、
誰かに伝えられることと、
そうすることで、
自分の仕事を客観的に見直すことです。

そうすることで、
たとえ書店の社員であっても組織のパーツではない
一人の「本屋」という自負を持って、

お客さんと関われるはずです。


次回からは、実際の作業に沿いながら、
その初歩的な解説から応用までを
全10回でお話ししていきたいと思います。



◆久禮・亮太 (くれ・りょうた)

1975生まれ。高知県出身。元あゆみBOOKS店長。
現在はフリーランスの書店員「久禮書店」の店主として、
ブックカフェの運営や新刊書店の棚作り、スタッフ研修
に携わっている。
月・水・金曜は4歳の娘と一緒に家族の仕事を、
火・木・土曜は外で書店の仕事をこなす毎日。

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◆本連載は、書店向けDM誌 『明日香かわら版』 の
記事をもとに再構成したものです。
毎月末の更新で、全10回の予定です。

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