山手線のすべての駅で降りたことがあるという人は、意外と少ないのではないでしょうか。実は私はあります。好きな駅はと聞かれたら夜遊びの場所が豊富な新宿ですが、住んでみたいのは静かであたたかみもある駒込です。
私は山梨県出身なのですが、上京する際に、近所の文具店のおじさんに「せっかく東京に行くのだから、いろんな街に行きなさい。休みの日に何もすることがなかったら、行ったことがない駅に行って降りなさい」と言われたのを今でも守っています。
チェーン店が多い日本なので、どの駅でも似たような光景はあるのですが、街のムードはそれぞれ違います。用事があって知らない駅に出かけたら、その駅の周りを歩き回り、行ったことがないカフェに寄るようにしています。いつか小説の舞台に使うこともあるかもしれないので、その街に住んだ人の気持ちになって観察してみると、いろいろなことが見えてきます。
先日は初めて大阪の四ツ橋という地下鉄の駅に降りました。大阪の友達からオレンジストリートというオシャレなエリアがあるから行ってみなと言われたから、文楽劇場に行くついでに寄ってみたのです。すると通りに沿って道頓堀川が流れているんです。もしかしてこれをずっと歩いたらグリコのネオンサインに行けるのではと歩いたら、10分ほどで到着しました。さらに10分歩いたら文楽劇場が現れました。大阪の街はこの川と共にあるのだなと妙に感心しました。こういうことも、実際に現地に行かなくては見えてこないことです。
現地に行かないと見えてこないものはたくさんあります。たくさんの駅を知っていると、初対面の人との話題のきっかけ作りにもなり、何かと重宝するものです。それに、ちょっとした小旅行気分になれて、リフレッシュもできるのです。(作家・内藤みか(@micanaitoh))
illustration...Kakky