「できる!」ビジネスマンの雑学
2024年09月06日
[915]打ち出の小槌か詐欺の片棒担ぎか?デジタル広告というビジネスモデル

 当コラムでは先月の8月23日、Facebookが出稿(宣伝)したデジタル広告について、その問題と解決経緯を書きました。

[911]Facebookの危ない広告に意見してみた
(2024年08月23日)
https://www.asuka-g.co.jp/column/2408/012649.html

 その筆も乾かぬ(?)うちに、再びデジタル広告の問題を取り上げます。それは9月に入ってすぐ、NHK BS「BS世界のドキュメンタリー」(2024年9月3日放送)で、ネット広告の闇を詳しく解き明かす番組が放送されたからです。これまでIT記事でも取り上げてこなかった「違法すれすれの広告手法」の詳細が初めて紹介されました。

「嘘(うそ)やヘイトもカネになる ネット自動広告取引の闇」
検索エンジンやSNSを運営するプラットフォーム企業を支える広告収入。これらの企業は広告の自動取引システムを構築し、広告効果を最大化しているとうたう。
NHK BS/「BS世界のドキュメンタリー」2024年9月3日

 最近の広告手法は、ユーザーがSNSにアクセスした瞬間に、そのユーザーの個人情報を広告を打ちたい広告主らにオークションにかけ、もっとも高価な広告費を提示した広告から順次画面に表示される仕掛けになっているそうです。
 ユーザーのアクセスから広告が表示されるまでのこの一連の手続きは、人手を介さずにコンマ秒以下で処理されています。

 たとえば、車の買い換えを考えているニューヨーク州在住の男性というプロフィールに、クルマを売りたい企業はいくらまで出すかの条件はすでに用意されています。あらかじめ組み込まれたプログラムはこのデータを元にSNS運営企業(たとえばメタ、グーグルなど)にとって最も収益の高い広告だけを選択し、広告を表示させます。
 広告がクリックされたデータもすべて蓄積され、よりクリック率の高い出稿頻度やレイアウトまで自動で処理されています。

 この程度のシステムならば、短時間で巨額取り引きを行う株取引システムに比べても手軽に組めるでしょうが、問題はそのシステムがブラックボックス化していることです。

「ただし広告主は、どのサイトに広告が表示されるか把握しきれない。掲載されたサイトにも料金が支払われるため、フェイクやヘイトスピーチの温床になっている...。」
(同上より引用)

24090601.jpg

 広告主もIT企業もどこのサイトに誰のSNS画面に、どんな広告を掲示しているかなど気にもとめず、ただひたすら高収益をあげるシステム作りを目指して、改良し続けているのが現実です。

 その結果、フェイクサイトであろうと詐欺サイトであろうと、収益性の高い広告がより多く出稿されて、より多くのクリックを得られれば、それでいいのです。

 この広告手法を成功させた裏には、ネットユーザーへの徹底した追跡に始まり、消費動向の把握、収入や嗜好、家族構成などの個人情報の収集にあります。
 ある消費者がインモラルなサイトを見たり、暴力的な映像を好むとわかると広告スペースには反社会的なサイトへの誘導、果ては火器や銃などのミリタリー装備をおすすめとして広告してきます。
 また、反社会的な考えをもつ消費者にはより同意しやすい、つまりより多くクリックされるであろう団体サイトやその意見を、広告スペースを使って頻繁に見せ始めます。

 反ワクチン団体やQアノン陰謀論、フェイクサイトなどが急速に広まる背景には、こうした誘導型の広告手法が影響していると番組は指摘します。IT企業は利益だけを追求してたはずが、結果的に国民感情を刺激して危険な思想を増幅させた結果、2021年の米議会議事堂襲撃が起きたと言います。

 番組ではイギリスで頻発する国会議員の殺害事件も、ネットの陰謀論を信じ込んだ若者の増加にあり、その原因は偏った情報提供で利益を上げるIT企業にあるいう論者を紹介しています。

 アフリカや中南米でのデジタル広告は、ほぼ無法状態であることも紹介しています。たとえばある民間人権団体が「敵対する●●族は皆殺しにしろ」などと民族対立を煽る広告をわざとSNSに広告を打ったそうです。掲載拒否されるどころか、わざわざスペルミスまで指摘して掲載になったそうです。

 IT企業は広告出稿に対してさまざまな禁止事項、反社会的言動への規制を設けていますが、現実的にこれらのルールは広告費というお金の目の前にしては無効化されることがわかります。

 それは筆者がFacebookに対して、いちいち異議申し立てしなければ違法広告が取り下げられないことと同じ構図です。

 なお、番組ではIT企業がスマホの会話を盗聴して消費者リサーチしているのかを取り上げましたが、そうした傾向は見つからなかったと結論づけていました。

 実は筆者の知る限り、盗聴などを使ったリサーチはすでに広く行われており、このことはニュースにもなっています。

Facebook・Google・Amazonのパートナー企業がスマホのマイクを盗聴していることが流出文書から判明したとの報道
マーケティング代理店から流出した資料により、広告業界がスマートフォンのマイクを通じて音声を取得し、個人と結びつけて広告に活用していることが明らかになった...。
アメリカのメディア企業・Cox Media Group(CMG)が開発した「アクティブリスニング」という技術です。2023年12月には、CMGがこの技術を使ってスマートフォンやスマートスピーカーからユーザーの日常会話を録音し、それを基にしたターゲティング広告を配信するビジネスを開始した...。
Gigazine 2024年09月04日

 また、通話だけではなくSNSに投稿される動画からも消費者情報は抜き取られており、さかんに動画投稿を促すサイトの本当の目的は「スクレイビング」(ネットから有益情報をかき集めること)にあります。

 こうして集められた情報は、整理・タグ付けされて、広告マーケティングの基礎データやAIに食べさせるエサ(データ)として無断で活用されています。

 デジタル広告の無法をこのまま放っておいて良いものでしょうか。広告業界に長らくいた筆者としては残念ですが、今すぐにでもデジタル広告とIT企業に国際的な法規制をかける必要があると考えます。(水田享介)

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