夏の暑い盛りにいただくフルーツは何ものにも代えがたいごちそうです。最近ではシャインマスカットのみずみずしい甘さが、酷暑に疲れた体と心を内側から労(いたわ)ってくれます。
人気が定着したシャインマスカットですが、国内の生産地では大きな問題が起きているようです。
シャインマスカット未開花症 排水や養分バランス崩れが影響か
・・・長野県や山形県など全国の生産地では花がうまく咲かず、粒が変形するなどの「未開花症」が相次いで発生しています。
国の研究機関が分析したところ、・・・。
(NHK NEWSWEB/信州 NEWS WEB 2024年4月15日)
記事のタイトルにあるように、土壌の排水が十分でなく根がしめったままの状態であったり、カリウムやマグネシウムなどの養分のバランスが偏っていると、花が付かなかったり粒が変形するなどの「未開花症」を発症するとのこと。
この問題を解決する対策はこれからですが、春先にブドウの木に花が咲かなければその年の収入は絶たれますから、生産者にとっては死活問題です。
ここ数年は、シャインマスカットが近所のスーパーにも並ぶようになり、筆者もお手頃価格でいただけるようになりました。このことはすでに昨年にコラムで書いています。
[846]どうする山梨県。フルーツ王国からの返礼品に低評価
・・・筆者は、今年ほどたくさんのシャインマスカットを食べたのは初めてでした。
そのうえ長く続いた残暑のおかげなのか、10月に入っても美味しいシャインマスカットが都内のスーパーに出回るように。
(当コラム 2023年11月27日)
https://www.asuka-g.co.jp/column/2311/012454.html
ではなぜ価格が下がったのでしょうか。昨年のニュースにその謎が解き明かされていました。
秋の味覚に異変 シャインマスカット安価の理由とは?
この原因の一つが、生産量の増加です。今年は6月に猛暑日が続いた影響で、シャインマスカットの出荷が例年より早まり粒も大きくなったそう。さらに香港・中国などへの輸出が減少・・・国内流通量が高まり、シャインマスカットの価格は下落しました。
(マイナビニュース 2023年10月4日)
中国が日本産食品の輸入を止めて、行き場を失った産物が値崩れを起こす。北海道産ホタテと同じ構図がすでに昨年から始まっていたのです。
中国の言い分としては日本の海は放射能で汚れている、でした。しかし、中国は台湾のパイナップルや釈迦頭(バンレイシ)を輸入禁止にしたり、オーストラリア産ワインに法外な関税をかけたりと、輸入を政治利用しているにすぎません。
聞くところによると、日本から密輸入したシャインマスカットの苗木が、韓国や中国で大量にコピーされて、いまでは日本の栽培面積を上回る(一説には日本の30~40倍)ほどになったそうです。さらに低価格で輸出まで始めたため、高価な日本のシャインマスカットは海外でさっぱり売れなくなりました。
ただ、この件には続きがあり、無許可栽培で増やしに増やしたブドウ畑でしたが、中国でも韓国でもシャインマスカットの味が、たった数年で急激に落ちてきたとのこと。一昨年にはついに誰も見向きもしなくなった・・・。
韓国の違法シャインマスカットが「まずいと不評」...(モーニングショー)
韓国の農業新聞に消費者のこんな投稿が載ったという。「シャインマスカットなので甘さを期待したが、酸っぱくて皮が厚くて吐き出すしかなかった」。
(J-CASTニュース・カズキ 2022年10月19日)
韓国産のシャインマスカットがまずくなった原因は、早く現金化したいばかりに熟さないまま早採りしたり、袋がけなどの手間をかけず、変形・変色・未成熟をそのまま出荷するなどが原因と言われています。
この記事にある日本の生産者の言葉が印象に残りました。
シャインマスカット生産農家の原田員男さんは「苗だけ手に入ればこっちのものだというほど、簡単なものではありません。シャインマスカットの特性を発揮できるように栽培できる人は限られています」
((J-CASTニュース同記事より引用)
まさしく冒頭のニュースに話が戻ります。シャインマスカットが好む品質の土壌を維持し続ける技術が問われるのです。可能であればこの土壌技術だけは海外流出を防いでいただきたいものです。
とある県知事が新人職員への訓示で「毎日野菜を売ったり、牛の世話をする仕事とは違い皆さんは知性が高い」とか、別のところで御殿場市の特産について「コシヒカリしかない」と発言したことが話題となりました。
シャインマスカットひとつとっても、よほど優れた「行動を伴う知性」がないとあのおしいさが出せないことは、誰にでもわかることでしょう。
今年もおいしいシャインマスカットを食べて、生産者の皆さんを応援しましょう。(水田享介)