1月20日に日本の月探査機「SLIM」が、国産の探査機として初めて月面に着陸しました。深夜0時からでしたがネット中継もあり、リアルタイムで応援した方も多かったようです。
数日後、月面ロボット「LEV-2」(愛称:SORA-Q)が送ってきた画像に衝撃が走りました。
「探査機が逆立ちしている!」
確かに探査機はエンジンノズルを上にして脚のない頭で月面に突き刺さったように見えます。英語のニュースサイトでは、「日本の月着陸船は逆さまになってるようだ」(Japan's precision moon lander has hit its target, but it appears to be upside-down | AP News)と、少しばかり皮肉を込めて紹介しています。
Japan's precision moon lander has hit its target, but it appears to be upside-down
(AP 2024年1月24日)
(c)JAXA/タカラトミー/ソニーグループ(株)/同志社大学
しかし、それは大きな間違い。「SLIM」は決して、アップサイドダウン(it appears to be upside-down)などしてはいなかったのです。
以下の「JAXA公式サイト内-technology-高精度着陸と軽量探査機」をご精読ください。
高精度着陸と軽量探査機(JAXA公式サイト内-technology)
https://www.isas.jaxa.jp/home/slim/SLIM/technology/index.html
※JAXA公式サイトより引用・画像加工
この着陸ステップを見ると、もともとエンジンノズルが側面にくるよう横倒しの着陸を予定していました。月面写真を見る限り、90度余計に回っただけで、決して逆さま(180度)回ったわけではありません。
また、着陸用の脚も従来の脚立のような脚ではなく、まん丸で弾力性の高い金属球です。これらが潰れることで着陸の衝撃を吸収して、船体を守ります。
こうした事前の準備のおかげで、ふたつあるメインエンジンのうちひとつが故障したにもかかわらず、船体を壊すことなく着陸したわけです。
本日、2024年1月29日の報道では、電源を切っていた探査機は太陽光パネルが発電を始めたため、活動を再開したそうです。
JAXAは着陸は大成功だったと発表しましたが、その理由も頷けます。
日本の月探査機「SLIM」発電確認
通信確立し月面調査再開 JAXA
太陽電池が発電しておらず、電源を切っていた日本の無人探査機「SLIM」について、・・・(JAXAは)これまでに地上との通信を確立することに成功し、運用を再開したことを明らかにしました。すでに月面での科学観測を開始している・・・。
(NHK NEWSWEB 2024年1月29日)
ところで、従来の月着陸は10数キロメートルの誤差の中で行われていました。どこに降りるかよりも着陸することが大切で、実におおざっぱなものでした。
これはどのくらいおおざっぱかというと、「皇居に行くつもりが、荻窪や赤羽、北千住、品川に連れて行かれた」ぐらいのことです。
※Microsoft Beig Map
今回の着陸では「SLIM」の誤差は約55メートルでした。
小型月着陸実証機「SLIM」が世界初となる月面への高精度着陸を達成
三菱電機の航法誘導制御技術が精度100メートル以内の着陸実現に貢献
(三菱電機 ニュースリリースより 2024年01月26日DS No.2403)
SLIM着陸時イメージ (C)JAXA
月探査機「SLIM」が実現した「探査が必要なところにピンポイントで降りる」高精度着陸技術は、まさしく世界初の偉業と言えるでしょう。(水田享介)
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■参考サイト
月面着陸に成功した「SLIM」はミッションの主目的を果たして
「満点」評価も着陸姿勢が話題に
(Gigazine 2024年1月26日)