先月末の11月30日、「大阪万博まであと500日」とマスコミが一斉に報道しました。
調べたところ万博の開幕日は2025年4月13日。残すところあと1年半ですべての建築物(パビリオン)と設備が完成することになります。
ところで、今回の万博の一番の目玉は何でしょうか。
ズバリ、それは「空飛ぶクルマ」に他なりません。
空飛ぶクルマ 万博で国内初の商用運航へ
有人でテストフライト
大阪・関西万博での国内初の商用運航を目指している「空飛ぶクルマ」について、11日、大阪 此花区の万博会場に近いヘリポートで有人飛行によるテストフライトが行われました。
(NHK NEWSWEB 2023年12月12日)
紹介された「空飛ぶクルマ」は日本航空などが主体となって運行するようです。ただし機体の開発はドイツ企業となっています。
また、二人乗りですがひとり分はパイロットで埋まるため、乗客はひとりしか乗れません。
商用運航を目指すそうですが、採算面でどうなのでしょうか。
しかし、話題となったのはそこではありませんでした。
この機体、「空飛ぶクルマ」とは言えないのではないか。タイヤもなしにどうやって道路を走るつもりか? とさんざんな言われようです。
「ただの小型ヘリ」大阪・関西万博の目玉
タイヤのない「空飛ぶクルマ」にSNS総ツッコミ「どうやって走るんや」
車輪が付いていない車体に、SNSは「ただの小型ヘリ」「有人ドローン」と総ツッコミが起きている。
(中日スポーツ 2023年12月13日)
筆者が思うに、日本では「電動の有人飛翔体を空飛ぶクルマと総称」したがる傾向があります。
それはガソリンエンジンやジェットエンジンなどの「化石燃料で飛ぶ航空機やヘリコプターとは違う」ことを強調したいためでしょう。
また、クルマとつくのは、実際に道路を走らせる意味よりも「クルマのように下駄履き感覚で使えます」(※)というコモディティ化(一般化)をアピールする借用語として使っているだけで走行という意味はありません。
※下駄履きで運転してはいけません
いままで日本には「空飛ぶクルマ」という言葉はありましたが、現物としての乗りものなかったためでしょう。
あるのは漫画の世界の奇想天外なものばかり。言葉はあってもイメージしづらかったのです。そのため、タイヤがあろうがなかろうが関係なく、まさしく作ったモン勝ち、言ったモン勝ちの世界です。
欧米では1950年代から、様々な空飛ぶクルマが販売されてきたためもう少し厳密です。その差が日本語に言葉と現物に齟齬をもたらしたと考えられます。
このことについてまじめに検証した記事があります。
ついに有人飛行「空飛ぶクルマ」 ヘリや飛行機と違うの?
あくまで"クルマ"と言い張る理由
空飛ぶクルマの定義とはどういったものなのでしょうか。国土交通省によると、「電動」「自動(操縦)」「垂直離着陸」でひとつのカテゴリーとするイメージだそうですが、国としては現状、明確な定義はない...。
(乗りものニュース 2023年3月21日)
日本国内には、「空飛ぶクルマ」について国が定めた定義そのものが存在しないそうです。
つまり、法整備が追いついていないわけですから、物理的に飛んでもあと1年半で法律を整えて日本の空を飛ばせるのでしょうか。
一般的に「空飛ぶクルマ」を運用するイメージは、クルマ移動に近いものでしょう。空港や駅からすっと乗り込み、目的地のビルや会場に降り立つ。空を移動するため道路の渋滞もなく、待ち時間もないのが理想ですね。
日本では国家的イベントで先進技術の実用化を謳いたがる傾向がありますが、実のところこうした先走り好みする日本は、過去に何度も失敗しています。
2年前の東京オリンピック・パラリンピック2020では、バスやタクシーを自動運転で走らせるというプロジェクトがありました。
実際にオリンピック村で走らせたところ、選手と衝突してしまい、その選手はケガのため出場できなくなりました。マスコミ報道は控えめでしたが、開発・運航していた企業は日本を代表する自動車会社だったため、よけいに重大な問題でした。
自動運転オペレーターのトヨタ社員を書類送検 パラ選手村の接触事故
(朝日新聞デジタル 2022年1月6日)
この影響のためか、日本では自動運転の実用化どころか、商用運転は未知数のままいまも足踏み状態です。
「空飛ぶクルマ」に話を戻すと、別のマスコミ報道では実用化への悲観的観測もでています。
万博の目玉「空飛ぶクルマ」正念場、機体開発や離着陸場の整備に遅れ...
客乗せず「デモ飛行」どまり事業者も
客が乗り降りする離着陸場(ポート)の整備も思うように進んでいない。...万博協会が大阪府と兵庫県で候補地とする計5か所のポートのうち、大阪城公園の東側にある森之宮(大阪市城東区)地区を外す可能性が浮上...。
(読売新聞オンライン 2023年11月30日)
「空飛ぶクルマ」の離着陸場(ポート)は安全性を鑑み、海沿いだけになりそうだと記事にあります。
筆者が思うに、海沿いにポートを作るなら、いっそフェリーなどの渡し船で十分ではないでしょうか。
その昔、最先端のコンピュータ技術をお披露目するのは晴海会場が定番でした。そしてスーツ姿のビジネスマンはみな、浜松町から船頭さんとともに船で渡ってました。
海外からのお客様を喜ばせるなら、屋形船や鵜飼い船なんかも日本文化も味わえて風流でしょうね。(水田享介)