ドバイでCOP28が開催されているさなかの12月3日、国際環境NGO「気候行動ネットワーク」が「化石賞」を発表しました。今回は、日本、ニュージーランド、アメリカを選んだようです。
日本は4回連続受賞したと、皮肉たっぷりのコメントも出ました。
日本に「化石賞」4回連続、国際環境NGO「脱炭素見せかけているだけ」
国際環境NGO「気候行動ネットワーク」は発表で、日本が脱炭素につながるとして、水素やアンモニアを化石燃料に混ぜて火力発電所で燃焼させる「混焼」を推奨していることを挙げ、「環境に優しいように見せかけているだけだ」と批判・・・。
(読売新聞オンライン 2023年12月4日)
ただこのNGO団体は民間組織であり、温暖化について科学的な研究をしている機関ではありません。活動家の集まりですから現状把握もせず、地球規模の環境をリサーチする能力すら持っていません。
この賞は選考のメンバーもわからず、選考基準も選考経緯も不明のまま、突然発表するのが毎度のこと。
彼らの発表は写真映えを気にしたパフォーマンスに過ぎず、どこの国のマスコミも取材も報道もしていません。ただひとつの国を除いて。
日本のマスコミだけが、なぜかこの「化石賞」がお気に入りのようで、NHKをはじめ、ほぼすべての新聞・テレビが写真や映像付きでトップニュース扱い。おかげで日本人だけが知っている不思議な賞となっています。
ところで「環境に優しいように見せかけているだけだ」との批判は妥当でしょうか。実は科学的根拠のないいいがかりにすぎません。
アンモニア等を50%近くまで混燃した石炭火力発電では、CO2の排出量はLNGに近くなることがわかっています。また、LNGへの混燃でさらに脱炭素が進む可能性があります。世界に先駆けてこの技術を実用化している日本は、どうしても叩いておきたい国のようです。
アンモニア混焼を巡る日本と欧米の温度差
日本は、燃焼時にCO2を排出しないアンモニアを石炭に混ぜて燃焼させる「混焼」を利用した石炭火力発電によるCO2削減に注力している。2030年に電源構成の1%、2050年に10%とする考え・・・。
(第一生命経済研究所/牧之内 芽衣 2023年6月8日)
なお、この団体と化石賞のいかがわしさは次の統計を見ればわかることでしょう。
※主な国別エネルギー起源温室効果ガス排出量
※世界のエネルギー起源CO2排出量(2020年)
世界のエネルギー起源CO2 排出量(2020年/環境省作成)より
https://www.env.go.jp/content/000098246.pdf
各国が温室効果ガス排出量を減らすか現状維持をしている中で、中国のみが2000年から3倍増となっています。
また、2020年にはCO2排出量は全世界の3分の1を中国一カ国で占めています。
しかし、中国が化石賞を受賞したことは一度もありません。また、過去のCOP会議でこの問題が主要テーマに取り上げられたこともありません。
そういえば、環境活動家を自称しているグレタ某も中国は一切非難しませんね。
このような茶番劇を報道するよりも、もっと目を向けるべきテーマが存在します。
EV車の生産には欠かせないバッテリー、その主原料となるリチウムの争奪戦が世界中で発生しています。
そして、リチウムが埋蔵されている地域、国の自然環境は、先進国によって徹底的な破壊が進んでいるのです。
グリーンエネルギー社会を目指すEUは、小国セルビアには自然環境への配慮は一切ないようです。
「リチウムを獲得せよ! 欧州エネルギー安全保障と新秩序」
グリーンエネルギーへの転換を迫られる欧州でリチウムが重要資源に。産出国と目されるセルビアは、欧州に近いためEUは熱視線を注ぐ。だが採掘に伴う水質汚染を恐れる農家が猛反発。すると・・・。
(NHKBS BS世界のドキュメンタリー)
『原題:backlight:a new order(オランダ 2022年)/(c)VPRO 』
南米ボリビアでは中国・ロシアからの資本投入で、大規模なリチウム鉱山開発が始まっています。
"白いダイヤ"争奪戦...ウユニ塩湖に異変
"脱炭素社会"のカギ「リチウム」 中国も獲得に躍起
「脱炭素社会」実現へカギを握る資源のひとつが、「白いダイヤモンド」とも呼ばれる「リチウム」です。その激しい争奪戦により、豊かで多様な自然に深刻な影響が出始めています。
(日本テレNews 2023年9月21日)
山を切り崩し、土地を掘り起こし、地下水を徹底的に吸い上げる鉱山開発。先進国のためにリチウムを提供させられた後、その国に残るのは取り返しのつかない自然破壊です。
どこかの国の観光名所を消し去り、農民から農地を取り上げ、山や森林を破壊して動植物を死滅させ、そうしてまで手に入れるリチウム。そのリチウムで走るEV車に乗って、わたしたちは幸せでしょうか。
身の回りだけをグリーンエネルギーにして満足でしょう。しかし、それが地球環境の保全になるのでしょうか。(水田享介)