先日、とても興味深い記事を見つけました。その記事は「組織の倫理崩壊」がテーマで、アメリカ国内の企業が起こした事故や事件から、倫理をなくした大企業がどのような兆候・原因でそこに至ったのかを、7つに分類し検証しています。
この記事の原文が書かれたのは11年も前です。しかし、現在の日本社会で信じがたいほどモラルの低い事故や事件が多発していることを考えると、いまこそこうした研究の必要性を感じます。
組織が倫理崩壊を起こす際に示す7つの兆候
ゼネラル・エレクトリックやメリルリンチ、AT&T、アーサー・アンダーセン、ユナイテッド・ヘルスといった企業の事例をベースに、「組織が倫理崩壊を起こす際に示す7つの兆候」をアリゾナ州立大学でビジネス倫理学の栄誉教授を務めるマリアンヌ・ジェニングス氏が解説
(Gigazine 2023年11月29日)
【原文はこちら】
Seven Signs of Ethical Collapse
(Markkula Center for Applied Ethics Feb 15, 2012)
7つの兆候は以下の通りです。
1. Pressure to maintain numbers
2. Fear and silence
3. Young 'uns and a bigger-than-life CEO
4. Weak board of directors
5. Conflicts of interest overlooked or unaddressed
6. Innovation like no other company
7. Goodness in some areas atones for evil in others
これら7つの兆候が日本で発生した事件で、どのように作用しているかを筆者が検証してみました。
◆1:数字を維持するための圧力
社会規範を守らずに利益追求に走る企業。違法スレスレの勧誘、契約の強要、質の低いサービス提供で急成長した企業に多いケース。
・日本の事例
最近の事例にはビッグモーターがあります。この企業の違法行為はここ最近数多く報道されていますので、改めて紹介する必要はないでしょう。
◆2:恐怖と沈黙
役職者や役員など高い職位の人間がくだす命令が絶対となったとき、その組織は崩壊を始めます。
・日本の事例
東京地方検察庁が起こしたえん罪事件。逮捕した以上は必ず有罪という論理がまかり通る検察庁。この驕りが繰り返しえん罪を起こしている。
異例の「起訴取り消し」 ある中小企業を襲った"えん罪"事件
(クローズアップ現代 2022年11月16日)
◆3:若手と大物CEO
若手社員と年配役員の意思疎通がないまま、組織が突っ走った結果、悲劇的な結末を迎える。
・日本の事例
旧日本海軍と陸軍の暴走で起こった五・一五事件、二・二六事件。特に二・二六事件では若手将校が日本政治の中枢を襲撃・死傷させたが、陸軍首脳らは当初はその暴挙を賞賛していた。しかし、昭和天皇自らが鎮圧を宣言すると一転、若手将校らを反乱軍として国賊扱い、処刑した。
その後、政府も軍首脳も戦線をコントロールできないまま、軍の暴走により日中戦争から太平洋戦争へと突き進み、大日本帝国は崩壊した。
二・二六事件 「兵に告ぐ」
(NHKアーカイブス 1936年度)
◆4:取締役会の弱体化
役員会が機能せず、職権を乱用した違法行為が常態化する。
・日本の事例
現在も進行している「日大アメフト部大麻事件」。問題行動の多いアメフト部を指導できないまま、役員間で派閥争い、権力の乱用が目立っている。学生は入れ替わっているはずが類似の事件が続発している。指導的立場の役員会、教員組織に改善のきざしは見られない。
徳島のITを誤推進する教育委員会
徳島県内の高校に導入したタブレットが粗悪品。IT教育は崩壊しているが、導入責任者の県教育委員会は改善策も打ち出せないまま。国費を無駄に使っただけの組織。
[835]タブレットの安易な導入が招いた教育現場の混乱
(当コラム 2023年10月16日)
◆5:利害の衝突
企業のトップがその責任を放棄して、自分の利益に事業を誘導するとその組織は崩壊する。
・日本の事例
古くは山一証券、現在進行形は東芝がある。東芝の役員会は長期に渡り累計赤字の付け替え、損失隠蔽などの工作で赤字決算を後送りしてきたがついに破綻。役員らは責任回避、自身の報酬確保に汲々とするだけで何らの効果的な対策を意図的に取らなかった。近年まれにみる無為無能集団と言える。
◆6:他企業にはないイノベーション
「自分たちは革新的なため、争いの上に立っている」と根拠のない自信に満ちた企業がいずれ破綻するパターン。
・日本の事例
スペースジェット(MRJ)の開発に失敗した三菱重工業。500億円もの国税が投入されたが、官僚も三菱重工も誰ひとり責任を取らず、国庫への返納もなく終わったことにされている。
◆7:ある分野では善い行いが別の分野では悪い行いになる
「倫理的に優れている」組織はそうであるはずの思い込みから、反社会的行為が明らかになっても認めることをためらい自滅する。
・日本の事例
日本ではこの事例はとても多いのが特徴です。
○パワハラ、モラハラがいっぱいの行き過ぎた青少年スポーツの指導者。
○善意の募金を着服し続けた「24時間テレビ」の日本テレビ企業体。
○「頂き女子りりちゃん」事件
○歌舞伎町ホストの売掛金問題
事故・事件の事例をきちんと検証して原因を取り除けば、組織は再生し、存続できる可能性もありますが、日本では問題を個人責任に転嫁しがちです。そして責任を取ったからもう当事者も組織も追求してはいけないという風潮がはびこっています。
最近発生した事件でも、組織の問題が解決されないため、同様の事件を再発させて事態がより悪化するのが常です。(NTT西日本・NTTドコモの顧客名簿持ち出し売却事件、日大アメフト部大麻事件、LINEの顧客情報流出)
[814]NTTドコモ、「ぷらら」と「ひかりTV」の個人情報持ち出し発覚。約600万件
(当コラム 2023年07月24日)
進行中の事件もあるため、詳細な検討はできませんが、上記の7つの兆候が複合的に発生しているケースもしばしば見られます。
不幸にして、たまたま、報道で大事になっただけ・・・こういった修飾語で事件が語られるとき、それを起こした組織の問題点はスルーされがちです。
組織の問題点を解消しない限り、体制が変わろうとも人が入れ替わろうとも、事件は一過性では終わらず何度も繰り返す。このことを学ぶ必要がありそうです。(水田享介)