みなさんは「GIGAスクール構想」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
このコラムを書くまで筆者も知らなかったのですが、文部科学省が小中高校に向けて2020年に打ち出した学校教育のデジタル化構想です。
子供たち一人ひとりに個別最適化され、創造性を育む教育ICT環境の実現に向けて~令和時代のスタンダードとしての1人1台端末環境~
≪文部科学大臣メッセージ≫
(文部科学省・発表 2019年12月19日)
https://www.mext.go.jp/content/20191225-mxt_syoto01_000003278_03.pdf
この文書の中で、
《PC端末は鉛筆やノートと同等の教材であり、これからのICT教育を実現するため「ひとり一台端末」、「高速大容量の通信ネットワーク」を一体的に整備する》
と通達しています。
この決定を受けて全国一斉にひとり一台のPC端末、いわゆるタブレットが子どもたちに配布されました。
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その結果は、どうなったでしょうか・・・・。
昨年から小学校や中学校でタブレット端末の修理費の話題がニュースで出始め、今年からはより大規模かつ深刻な問題となっています。
学習端末「よく机から落ちる」「こんなに壊れるとは」...
自治体にのしかかる修理費
学校で学習用デジタル端末が小中学生に1人1台配布されて1年以上たち、端末の故障が相次いでいる。端末を落とすなどの事故が目立ち、修理費が年間数百万円に上る自治体もある。
(読売新聞オンライン 2022年10月8日)
昨年6月、埼玉県久喜市では小中学校のタブレット修理費として250万円あまりを予定していましたが、1029万円を支出することになりました。(埼玉新聞より)今後は保護カバーや保険の導入を考えるとのこと。
想定以上に壊れる教育現場のGIGAスクール端末。修理契約せずに故障機が塩漬けのケースも
予備機を用意していなかったり、PCメーカーの延長保証を契約していなかったり、保険に入っていなかったりといった自治体が多い...。
(PC Watch/大河原 克行 2023年6月28日)
国の予算ではタブレットの修理費までは見てくれず、かといって自治体で負担するには大きすぎる金額のようです。
そして、今年になり生徒の使い方だけではない欠陥も見つかり、教育現場はいっそう混乱を極めています。
タブレット端末故障問題 知事"法的手段も含め厳正に対応"
県が、県立学校に配布しているタブレット端末をめぐっては、合わせて1万6500台のうち、およそ17%にあたる2859台で故障...。後藤田知事は「端末の契約やメンテナンスがどのように行われていたか検証し、法的手段も含めて厳正に対応したい」と述べ、必要があれば中国のメーカーから端末を調達した業者に対し、損害賠償の請求を検討...。
(NHK NEWSWEB/徳島 NEWS WEB 2023年10月13日)
徳島県が導入したのは、棚に保管しておくだけで壊れるタブレットだったようです。
県立学校のタブレット端末の故障問題について県が緊急対策会議【徳島】
教育政策課から、膨張の原因とみられる過充電について対策の周知が不十分だったことや、県立学校においてバッテリーの膨張がその後も確認されていることが報告されました。
(JRT四国放送 2023年10月13日)
学校で多忙を極める先生がたにタブレットの充電を見張らせるのも酷な話ですが、その程度の品質だったと言うことでしょうか。
これは筆者の私見に過ぎませんが、たかだか10インチ程度のタブレットでは学習の手助けにはなりません。タブレットが誕生したのは、PC端末を立ち上げなくてもデータやウェブサイトをさっと閲覧できる「ビュアー」だったはずです。
バッテリーは本体内部にのり付けしてあるため、1~2年で消耗・膨張して、本体や液晶を壊します。こどもたちに大事に使うよう指導したとしても、2年弱しか寿命を想定していない「使い捨てツール」にすぎません。
さらにタッチスクリーンの故障はそれ以上に頻発します。タブレットの内部はセンサーと液晶が幾層も張り合わされたタッチパネル、精密な基板、危険なリチウムバッテリーがガッチリとのり付けされています。分解を想定していない機器のため、修理はほぼ不可能です。
調子が悪くなったりバッテリーの持ちが悪くなったら買い換えるのがタブレットの宿命です。ビジネスツールとしてはその程度の認識だったはずです。
なぜ使い捨てツールのタブレットを「GIGAスクール構想」に採用したのか。故障したと騒ぐ前に、教育委員会や行政には採用責任はないのでしょうか。
学校行事に時間を取られ、さらにPC機器の故障に振り回される学校の現場を思うと、先生がたにはお気の毒としか言いようがありません。
これからの学校教育には「ギガスクール」よりも「テラ(寺)スクール」-「寺子屋」のように先生と生徒が直接交流する教育とそれにかける時間と人材こそが必要ではないでしょうか。(水田享介)