「できる!」ビジネスマンの雑学
2023年10月06日
[833]なぜ米野球実況は大谷選手を「オータニサーン」と呼ぶのか

 投げては三振の山、打っては特大ホームランをかっとばす大谷翔平選手ですが、ついに今年、米メジャーリーグでホームラン王となる偉業を達成しました。

 大谷選手と言えば、代名詞ともなった「Show-time」(ショウ・タイム)。名前の翔平と英単語をミックスした造語は、アメリカ人に発音しやすく語呂もよかったのでしょう。野球中継ではおなじみとなりました。

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 ところで、「ショウ・タイム」に加えて「Ohotani-saan」(オータニ・サーン)と「さん付け」で叫ぶ実況を聞いた方も多いでしょう。

 なぜ、大谷選手は「オータニサーン」と呼ばれるのか。なぜ英語式に「Mr.オータニ」と敬称を付けないのか。

 筆者はその理由について考察してみました。すると意外にも米国に根付いた日本マンガの影響があることがわかりました。

マンガが英語版に翻訳される方法の変化に
「日本のマンガそのものを楽しみたい」というアメリカの
マンガファンの熱意が詰まっている
・・・「~さん」「~様」というような人称表現も英語にはないため、単純に翻訳すると消えてしまうか、「Mr.」や「Mrs.」などを用いてニュアンスが変化してしまいます。そのため、「-SAN」「-SAMA」と日本語の読み方のまま残す・・・。
Gigazine 2023年7月22日)

 この記事では、日本の漫画がアメリカでどのような形で読まれてきたのか、その歴史をひもといています。

 従来のアメリカンコミックはページを左から右に読んでいきます。英語ですから文字(吹き出し)はすべて横書き。一方で日本のマンガは右ページから左へと読み進んでいきます。文字はすべて縦書き。

 昔はこの日本式左開きを米国式右開きに変えるため、絵そのものを反転印刷していたそうです。日本のマンガが英語圏で読まれるために、アメリカンコミックのルールに従ったのでした。

 ところが、日本のマンガは日本式のまま読みたいというニーズが高まり、レイアウトもそのまま、場合によっては英文を90度回転させて縦に並べて吹き出しに入れたりするようになりました。

 日本語への理解が進んだ最近では、コマの中の手書き文字やオノマトペ表現もそのまま残すようになりました。

 そのひとつとして名前の後につく「さん」も「-san」と発音のまま表記され始めたとのこと。

 相手に敬意を示しつつも親しみも含まれる「○○-san」は、アメリカ人には、新鮮な発見だったようです。

 「日本語にはこんな便利な敬称があったんだ!」
 「ややこしいミスターやミセスはやめて、サン一択でいいよね!」

 世界規模のネット社会になった今、初対面の人にミスターかミスか、はたまたミセスか。それらのどれも嫌な人なのか。ではどの敬称ならOKなのか。相手にいきなり聞くこともできず、英語圏の人には悩みのタネだったようです。

 特に「Mr./Miss./Mrs.」などはSDGsが重要視される今、性別や婚姻の有無で区別する英語表現そのものが時代にそぐわなくなってきたことがあります。

 もうひとつ、意外な理由があります。英語圏では苗字の呼び捨ては厳禁という暗黙のルール(※)があるそうです。
(※暗黙のルールなので、コトの真偽は日本人の筆者にはわかりかねます)

 ファーストネームの「ショウヘイ」を呼び捨てにするのは大丈夫ですが、苗字の「大谷」を「オータニ」と呼び捨てにはアメリカ人は生理的にできない。だから「サン」を付けることにしたのかもしれません。
 (とはいえ野球選手は登録名がファーストネームでも呼び捨てが一般的。だとすれば単にサン付けを楽しんでいるだけかも)

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 日本語を母国語とする人なら常識ですが、さん付けは男性にも女性にも、ましてや性で区別されたくない人にも使えます。さらには、苗字でも名前でもさん付けでかまわないという、まさに「名前呼びの万能膏薬的な敬称」です。

 日本よりもオープンでフラットなはずのアメリカ社会に、このような敬称がこれまでなかったのが不思議です。

 そのオールマイティな便利さにアメリカ人がとうとう気づいてしまったのかもしれません。

 そういえば、アドビシステムズがサービスしている、AIサービス「Adobe Sensei(アドビ先生)」。筆者は最初、奇妙な違和感すら感じたセンセイでしたが、アメリカ人にはまだ色の付いていない日本語の敬称をあえて選んだのかもしれませんね。

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Adobeが人工知能「アドビ先生」発表 名前の由来は?
 「先生」は、米国で「恩師」「学ぶ人」「ある場所で教育を受ける」「社会的知識を持っている人」という意味。日本語の「先生」より少し高度な印象を受ける言葉だという。
ITmedia NEWS・太田智美 2016年11月03日)

 シンプルで使いやすく誤解を招かない「サン付け」が英語圏で人気の理由。何となくわかっていただけたでしょうか。(水田享介)

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