ひと昔前はプライバシーの侵害と設置に反対する人が多かった「監視カメラ」。いまでは駅や公共施設、商店街や幹線道路など多くの人が行き来する場所には監視カメラがあることは当たり前となっています。
その理由となったのが、突発的な交通事故や犯罪などを監視カメラが映像で残していたこと。これが動かぬ証拠となり迅速な事件解決につながったという事例を、わたしたちが幾度となく見聞きしてきました。
「監視されている」のではなく、「危険から身を守る」カメラとして受け入れられたことが、国内で監視カメラの設置が進んだ一番の要因と言えるでしょう。
ところが、カメラ技術の進歩はわたしたちの常識を越えて進んでしまいました。カメラにAI機能を組み込んで、映された映像からより深い情報を得ようとし始めています。
便利なAIカメラを貴殿の商店街に設置しませんか、売上げアップに繋がりますよと提案されて断る商店主はいないでしょう。
そして、本当にAIカメラの設置が今年7月から始まっているそうです。
100台も、渋谷に。
この情報は6月に筆者の手許にもプレスリリースが届いていましたが、8月末にSNS上で問題になり始めました。
渋谷を歩くだけで年齢から行動、服のブランドまで筒抜け?
"AIカメラ100台設置プロジェクト"が物議
年齢や同伴者、服装、渋谷での行動内容まで、データをリアルタイムで蓄積──渋谷駅周辺にAI100台を設置するプロジェクト「渋谷100台プロジェクト」のWebサイトにある・・・。
(ITmedia NEWS 2023年9月1日)
顔認証機能はスマホのカメラにも搭載されており、すでに知られた技術ですが、AIの知能を与えられたカメラは、映った人物の性別はもとより、年齢、着ている服のブランド、同伴者の判別、そしてこの地域に過去に何回訪れて何を購入したかまでを瞬時にデータ化するまでになっています。
このことが何を意味するのかは、Facebookを例に取るとよりわかりやすくなります。
Facebookは無料で登録できて会員同士の交流を(表向きは)楽しめますが、いったん会員になると登録者の個人情報やPCの履歴は徹底的に吸い上げられます。それはFacebookからログオフしても続いており、ターゲットになった会員に対しては他のアプリでの行動の追跡さえも行っています。
Facebookからあなたのプライバシーを守るには
ユーザーの個人情報を収集し、共有し、利用することで、同社の創業者で最高経営責任者(CEO)のMark Zuckerberg氏はおよそ800億ドルの財を成した。だが、あなたは知らないだろう。Facebookとその仲間たちが、Facebookを使っていない間もあなたのデータを大量に集めていることを。
(CNET Japan 2020年02月05日)
無料で友人と交流できるかわりにあなたの個人情報を収集しているのがFacebookです。
それと同じように、渋谷の街に無料で足を踏み入れる代わりにあなたの個人情報はすべて引き渡してもらいます、というのが「渋谷100台プロジェクト」といえるでしょう。
「渋谷100台プロジェクト」は、
・渋谷区のスマートシティ化
・新たなソリューションを創出できる基盤の構築
・渋谷駅周辺を網羅した人流データの提供・利活用の提案
などを目的として、集積したデータは
・商業施設
・小売店
・防犯企業
・ゲーム会社
・広告会社
・施設管理
・自治体や都市開発
・建設コンサルタント
に活用されることになっています。
カメラの設置場所は
・渋谷駅周辺の幹線道路=100メートル間隔で設置し人流計測
・渋谷駅改札の出入り口通路=改札からの人流を計測
・商業施設前、公園、施設=出入りする人流
かなり徹底した監視カメラ体制となるようです。(リリース文書より抜粋)
なお、収集したデータについては、「幹線道路の通行量や各商業施設への入店客数といったリアルタイムの利用者の属性情報(性別・年代)や滞在時間等の人流データを複合的に可視化・分析したビックデータを一部オープンデータ化し、各協賛事業者が利用できる」(リリース文書より)ようにして渋谷のまちに還元するそうです。
AI化した未来都市・渋谷の街を、楽しく歩けるかどうかは、あなた次第というほかありません。(水田享介)