「ふるさと納税」といえば、いまでは多くの方が耳にしており、頼んだことがある方、返礼品が届くのを毎年楽しみな方など、多くの人に支持されている制度です。
ただ、ふるさと納税があまりにも盛況のため、都市部の区や市では自治体の存続に危機感を抱いている状態であることはあまり知られていません。
[395]ふるさと納税、現状への違和感を感じたある市長の決断
(当コラム 2017年05月19日)
https://www.asuka-g.co.jp/column/1705/008052.html
[802]♪それにつけても・・・、松山市にふるさと納税の救世主、現る
(当コラム 2023年06月09日)
https://www.asuka-g.co.jp/column/2306/012315.html
東京都世田谷区では、数年前までふるさと納税の制度に参加しておらず、一方的に税収が出ていく状態でした。ただそれも限界を迎えたようです。昨年は寄付という形で納税を募っていましたが、ついに今年、返礼品を用意して、これ以上の流出を食い止める作戦に打って出ました。
ふるさと納税に批判的だった世田谷区、今年度流出額97億円か...
影響無視できず返礼品を大幅拡充
東京都世田谷区の2023年度の流出額が約97億円に上り、前年度より1割程度増える見込み・・・。流出額の増加は10年連続で、歯止めがかからなくなっている。
(読売新聞オンライン 2023年6月14日)
一年間で100億円近い税が流出すると、ほとんどの地方自治体はすぐにたちいかなくなるはずですが・・・、世田谷区は違います。
そこで世田谷区の財政を調べてみました。
2021年度では、3,592億円の収入、2兆137億円の資産があります。
※世田谷区の財政状況(令和3年度決算)より
https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/kusei/004/002/d00201049_d/fil/R03bs.pdf
今年度流出額97億円を一般家庭の支出に当てはめると、毎月、1万4千円程度の支出(給料50万円の場合)が増えたとみなすことができます。
[計算式:97億/3592億=0.027%、612万×0.027%÷12=1.377]
もし25万円の手取りの家庭なら、毎月7千円弱の支出となります。
一般家庭に例えた場合、支出の増加はスマホなどの通信費か光熱費程度ですが、この費用が毎月天引きされ、さらには毎年値上がりするとなると、やはり抜本的に家計を見直さざるを得ませんね。
世田谷区はふるさと納税による税の流出に危機感を募らせており、「世田谷区民のために使われるはずの税金が減っている」と訴えています。
※同上、世田谷区の財政状況(令和3年度決算)より
世田谷区の訴えはもっともです。しかし、税を流出させている張本人は同じ世田谷区民です。でもそれだけは言いたくても言えないのか、なぜ税が流出するのかまでは言及していません。「区の訴えに区民が耳を貸さない」・・・この状態を何と言えばいいのでしょうか、迷うところです。
「ふるさと納税」はスタート時は、その斬新な発想と地方を応援しようという心意気がマッチしたとてもいい制度でした。しかし、今では魅力のある返礼品を持つ自治体の独り勝ち状態。ある統計では、全自治体の25%は赤字とも言われています。
自治体間の「税の仁義なき奪い合い」となったいまの制度。そろそろ全面的な見直しの時期に来ているのかもしれませんね。(水田享介)