「できる!」ビジネスマンの雑学
2023年06月26日
[807]大昔から繰り返されてきた慣用句、「今どきの若者は・・・」

 「今どきの若者は・・・」、「最近の若いモンは・・・」というフレーズは、誰もが一度は耳にしたことがあるでしょう。歳を重ねた方はヤングだった時分に、若者は今まさに言われているかもしれません。

 筆者は新入社員の当時、業務ソフトウェアの内部制作に従事していたこともあり、上司から言われた「今どきの若者は・・・」の後に続くことばは、(融通の利かない)「デジタル人間」、(一般常識が通じない)「新人類」でした。

 今にして思えば、人権も個性も否定するレッテル貼りですが、昭和の時代は新人のやる気を挫けさせて、手なずける手法が持て囃されていたのでしょうか。職場に新人が配属される5月から6月の今の時期、かつてはこうした記事がマスコミを賑わせていました。

 新人の教育には悪影響しかないのに、なぜ昭和の大人たちは個人の価値観だけで若者全体を批判したのか。一時的なはやりだったのでしょうか。

 じつはこうした発言は、今に始まったことではなく、紀元前の昔から綿々と語り継がれてきたようです。

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 その内容としては次のような文献があります。

 「若者が大人の話に耳を傾けない」(プラトン)、「男も女も、言葉の文字を間違って使うのはみっともない」(枕草子『ふと心劣りとかするものは』/清少納言)、「今様の人は言葉が乱れている」(徒然草第22段『何事も、古き世のみぞ慕はしき』/吉田兼好)
 ※「」内は現代語訳

 若者の態度を嘆くプラトンは紀元前の人、言葉遣いの乱れを指摘したのは平安・鎌倉時代の有名インフルエンサー(文筆家)たちでした。

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 千年も昔に言葉が乱れていると言われた日本語ですから、今の日本は言葉が通じなくなっているかというと、そういうわけではありません。

 これと同じように、道徳的な退廃を嘆く発言がローマ時代からしばしばあっても、いまも社会秩序が保たれていることを、ハーバード大学の研究者が解き明かしたそうです。

古代ローマ人「世も末だ」現代人「世も末だ」←この理由をハーバード大が解明
米国のハーバード大学(HU)とコロンビア大学(CU)で行われた研究により、「世も末じゃな」という言葉に代表される道徳的荒廃は錯覚に過ぎないことが示されました。
ナゾロジー 2023年6月16日)

 この記事では「世も末だ」と書かれた出典は明らかではありませんが、ローマ時代から中世、そして現代の文豪までが同じように社会の道徳的退廃を嘆き、昔に比べて大衆の道徳心が失われていると指摘しているそうです。

 しかし、昔に比べてどんどん世の中が退廃しているわけではないことはあきらか。ではなぜこのような発言がなされて記録されたのか、その原因を解明したといっています。

 結論から言うと、「批判的記事の方が喜んで読まれる傾向にある」ことが「世も末」発言は残りやすいと指摘しています。
 もうひとつの理由は「過去は美化されやすい」とのこと。確かに年配の方と話すと「昔はよかった」話をしばしば聞くことがあります。

 では、私たちは「世も末」発言を聞き流し、「昔はよかった」思い出話に適当な相づちを打っていればよいのでしょうか。

 そういえばアメリカ合衆国の元大統領、ドナルド・トランプ氏はこんなスローガンを掲げていました。

 「Make America Great Again(米国を再び偉大に)」

 このスローガンの大もとは米国が大不況だった1979年に誕生し、1980年大統領選挙におけるレーガン陣営が使ったのが始まりのようです。

 ではアメリカが本当に偉大だった時代はいつだったのでしょうか?

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 アメリカが第一次大戦後の好景気に沸いた1920年代や自国が戦場にならず独り勝ちしていた1950年代と言う人もいます。
 しかし20年代はあっという間に大恐慌時代に陥り、50年代は核戦争直前まで行く恐怖の時代でした。
 筆者は不勉強なのか、トランプ氏が米国が偉大だった時代を具体的に語るのを聴いたことがありません。

 日本ではかつてこんな発言をした人がいます。

 『今の若い者は、などと口はばたきことを申すまじ』

 旧日本海軍の軍人、山本五十六の言葉です。若者を評価しようとの発言ですが、戦場で死んだのはほとんどがその若者達でしたね。

 いい夢をみせてやると政治家が言ったり、軍人が若者を誉め始めると、あまりいいことがないのは確かなようです。(水田享介)

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