昨日、2023年5月14日、タイで下院総選挙が実施されました。9年前の2014年、軍事クーデターが起きたタイでは、それ以降は国軍寄りの政党が政権を独占してきたのですが、今回の選挙結果ではその政治体制が大きく変わると予想されています。
今回の選挙では大まかに分けると3つの政治勢力の争いとなりました。
・「タイ貢献党」=タクシン元首相派。党首はタクシン氏次女ペートンタン氏。貧困層、庶民からなる元赤シャツ派の流れ。
・「前進党」=軍改革、王室改革を唱える急進的改革派。党首はピタ氏。
・「タイ団結国家建設党」=クーデターを率いた元陸軍司令官のプラユット首相が参加。連立政権の「国民国家の力党」から分裂した。
投票前の勢力と国民の反応はこちらに解説があります。
タイ総選挙 クーデターで政権追われた元首相派 政権交代なるか
9年前のクーデター以降、軍の影響力が強い政権が続くタイで、総選挙が行われました。プラユット首相が続投を目指す中クーデターで政権を追われたタクシン元首相派による政権交代となるかが焦点で、野党がどこまで議席を伸ばすのか結果が注目されます。
(NHK NEWSWEB 2023年5月14日)
※2006年9月19日のタイ軍事クーデターに遭遇した筆者。撮影日:2006年9月22日
選挙前の予想では「タイ貢献党」が第一党になり、現与党の親軍派政党とゆるやかな連立政権を立てると思われていました。
ところが、本日15日の開票結果では、革新派野党の「前進党」が第一党という結果に。これまで「前進党」はどことも連立は組まないと主張してきましたが、「タイ貢献党」と連立すると野党だけで政権を奪取できる可能性も出てきました。
その一方で、80~90議席と予想された「国民国家の力党」は39議席にとどまり、半分以下の勢力になりました。
「前進党」は不敬罪の改正を求めるなど王室改革を訴えていたため、王室を敬うタイ国民の支持は少ないと思われていました。しかし、「前進党」の躍進で王室改革を求める声があることが明らかとなりました。政治が王室に関与することは、タブーではなくなったのか。それともいまだ「虎の尾を踏む」行為なのか。
タイ国民の王室への感情は、日本人の筆者にはわからない所でもあるため、注意深く見守る必要があります。
今回の選挙で政治基盤を弱体化させた国軍が、野党連合政権に対して再びノーを突きつけて、軍事クーデターで巻き返しを画策するのか。それとも親軍派政党を丸め込んだ妥協案の政権でクーデター回避を図るのか。
聡明なプミポン前国王(ラーマ9世)のもと、安定した政治体制が継続したことで、順調に発展してきたタイ王国。プミポン前国王がご存命であれば、かつてのように市民側、国軍側ともに目を光らせて、暴力による政権交代を排除したでしょう。
※かつて空港に掲げられていたプミポン前国王が活躍する姿(2012年3月)
それが叶わぬ今、タイ国民自身が納得できる政権樹立のプロセスを構築していくしかありません。絶対的権力を備えた王政を持つタイ王国の強さと弱さが見えてきます。その舵取り役を務めるのは誰か。もうしばらくは、タイ王国から目が離せません。(水田享介)