今年の春、受験を終えたこどもたちが、晴れて専門学校や大学等に進学した家庭も多いことでしょう。
合格した喜びと新しい知識を得る期待で輝く瞳に、ご両親は我が子を育てあげた充実感を味わい何ものにも代えがたい幸福に包まれていると思います。
しかし、進学すればそれで終わりではありません。教育費の負担がもうしばらく続くことは自明の理です。
ところで、教育費に加えてある項目の負担の大きさが社会問題化していることはご存じでしょうか。
教育の場で忽然と発生する追加の負担や数多くの教材・・・そのことを「隠れ教育費」と呼ぶそうです。
授業料と別で総額30万円? 「隠れ教育費」の驚くべき実態
かさむ保護者負担に無償化はどこまで必要?
参議院決算委員会で3日、共産党の吉良よし子参議院議員が「憲法第26条には義務教育は無償。しかしいまだに給食費の負担をはじめ完全な無償にはなっていない」と指摘。これに対して岸田総理大臣は「学校給食費の無償化に向けて課題の整理を行う」と答弁した。
(ABEMA TIMES 2023年4月8日)
教育費は無償化に向かっているとの報道を真に受けていた女性は、娘が公立高校に入学したとたん、25万円を超える支払いを求められ、困惑したと語っています。
現実はさらなる負担が予想されます。制服や運動用具とは別に授業で使うPC端末やタブレット、アプリなど数多くのIT機器が必要となっているからです。学校からの連絡がSNSで届くため、スマホの契約も不可欠です。
タブレット自費購入「怒りしかない」 公立高校でなぜ保護者負担?
京都府立高で2022年度の入学生から6万~7万円程度するタブレット端末の自費購入が決まったことに「怒りしか感じない。新型コロナウイルスによる不況下でどこにそんなお金があるというのか」との意見が府内の保護者から京都新聞社の双方向報道「読者に応える」に寄せられた。
(京都新聞 2021年4月18日)
こうした実態に少しでも対抗するため、購入ではなく月次契約や年次契約といったサブスク品に置き換える家庭も増えています。
ランドセルに制服や体操着も!子ども向けサブスクが続々登場、
家計の負担減も"隠れ教育費"の実態「学校指定品が高すぎる」
「コロナ禍を経て物価高が深刻化する中、子育て世帯の家計ダメージが(中略)保護者からは制服や学校指定品が高すぎるという声を頻繁に聞きますし、リユースの取り組みも拡大している。」
そう指摘するのは、教育学者で千葉工業大学准教授の福嶋尚子さんだ。
(週刊女性PRIME 2023年4月18日号)
筆者もこの春、隠れ教育費と戦ったひとりです。友人のお子さんがとある国立教育大学に合格したことを知った筆者は、すぐにこう伝えました。
「大学の講義はIT化が進んでいるから高額な教材機器の購入を必ず言ってくる。ついては私(筆者)が同等品を安く手配する。実費だけ払ってくれ」
案の定、時をおかずして配布された入学案内書類のなかに大学生協の分厚いカタログが紛れ込んでいました。筆者もそのコピーを入手しました。
13インチの型遅れタブレット本体が22万8千円~。Officeなど必要アプリをインストールする講習会の参加費は別途5千円。指定タブレットを購入しなかった学生は2万円に跳ね上がります。
さらに、学科ごとに辞書など必要なアプリが細かく分かれており、それぞれ1万5千円~3万円。言われるままに契約すると、タブレット一式で30万円以上かかる計算となります。(※プリンター付きのセットは31万2千円)
筆者は過去にIT技術者として官公庁、企業へのPC導入を担当した経験があり、たとえ型落ちでも指定タブレットを上回る性能と耐久性のノートパソコンは幾らでもあることは知っていました。企業で眠っていたリユース品を選定して、追加パーツ代を入れても5万円ほどで済みました。
調達時のOSはWindows10だったものの、アップデートをかけて大学指定のWindows11に変更。必須アプリのインストールに加え、別ドライブとしてSSDを本体に追加。ドキュメントフォルダに自動バックアップ機能を設定して、文書のバックアップを万全にしました。
できあがったPCを四国の友人宅に送った後、念のため東京-四国の間でメール送受信とZoom会議を友人親子と行い、楽しいテスト稼働となりました。
ところで、大学指定タブレットはバッテリーを本体内部に接着しており、その寿命は2年足らず。バッテリー交換はユーザーにはできません。果たして4年間の大学生活に耐えられるのでしょうか。一応4年間保証とありますが、修理代を払ったとしてもタブレットだけに機能拡張や性能向上は望めません。カタログではそのことには触れず、有料の設定講習やオプションを勧めるページが延々と続いていました。
その一方で、大学はネット接続は有線LANを指定しており、必須備品にLANケーブルがありました。ところが選定したタブレットにLANポートはありません。そのため拡張ボックスが含まれていますが、これではタブレットの携帯性が大きく損なわれます。使用環境に照らし合わせた機種選定は正しく行われたのでしょうか。
また、タブレットを使えないとこれからは教師は務まりませんという文言がありましたが、今どきのスマホ世代の学生はタッチパネルで育っていることをすっかりお忘れのようです。
PC端末に触る機会の少なかった新入生ですから、同じ機材を使わせることでサポートの手間を省く目的もあるでしょう。しかし、国立大学では初年度に80万円を越える授業料負担は決定済みです。
PCメーカーとの兼ね合いもあるでしょうが、生協には教材を格安で入手する指南ページも用意してほしいものです。
(※12万8千円~の低価格モデルもありますが10インチ画面しかなく極端に性能を落としたタブレットでは学習は不可能に近いです)
大学側も父兄の負担を和らげるような工夫を配慮してはいかがでしょうか。PCの知識のある筆者が用意する場合と、知識のない人が負担する場合に20万円近い金額差が生じるのは正常な社会通念から外れてはいないでしょうか。
今回の体験を通じて、政府や教育機関がとなえる「教育費の無償化」という掛け声が、筆者の胸には無性にむなしく響いてきました。(水田享介)