これまでガソリン車を全廃させると息巻いていたEUが突然、方向転換しました。ガソリンの生産工程で二酸化炭素が少ないなら、それを燃料にして走るクルマもOKにしましょう、と何とも歯切れの悪い発表でした。
CO2排出"実質ゼロ"合成燃料広がるか エンジン車販売巡り賛否
EV=電気自動車への転換をいち早く打ちだしたEU=ヨーロッパ連合。エンジン車の新車販売を禁止することを目指していましたが、その方針を修正しました。
(NHK NEWSWEB 2023年4月2日)
このニュースだけを見ると、EUはカーボンゼロ対策では日本より先行しているように見えますが、実はヨーロッパでは過去に許しがたい蛮行がまかり通っていたのです。
ドイツの「ディーゼル車不正事件」です。
「ディーゼル神話」崩壊、ドイツがEVへ急転換
2040年までにディーゼル車、ガソリン車の販売を禁止する──。
・・・元凶はディーゼル車だ。力強い走りやハイブリッド車(HV)並みの燃費に加え、税制優遇のメリットもある。「クリーンディーゼル」といううたい文句で、欧州の乗用車販売で半分以上を占めてきた。だが、その虚構性が明るみに・・・。
(東洋経済ONLINE :宮本 夏実/森川 郁子 2017年8月7日)
※ガソリン車のイメージ
EUを席巻する日本車をどうにかしたい。そう思ったかどうかわかりませんが、ドイツメーカーがディーゼルエンジンなら二酸化炭素排出が少ないと「クリーンディーゼル」を打ち出しました。日本でもディーゼル車にだけ減税が適用されるなどしていました(2021年で終了)。
しかし、それはうそでした。テスト車だけクリーンな排気ガスになるようプログラムされており、市販車で走ると40倍もの窒素酸化物(NOx)を排出していたのです。
2015年にこれから世界の気温上昇は2℃以内に抑えましょうという「パリ協定」を成立させたEU諸国は、はしごを外された状態となり面目を失いました。
環境保護を訴えてグレタさんが登場したのが2018年です。なぜ彼女がこの時期にマスコミに注目されたのか、興味深い出来事でした。攻撃は最大の防御ともいいますね。
2021年、欧州委員会が打ち出したのが、CO2排出量を2035年までにゼロにする規制案です。2022年10月、欧州議会で合意成立。この法案が成立すると、2035年以降はガソリン車の販売は実質的に不可能になります。販売できる新車はEV車のみとなり、ガソリン車どころか日本が強みを発揮してきたハイブリッド車(HV)も販売禁止です。
この数年間は、日本の自動車メーカーは、EV車に本気で取り組んでいない。過去の遺物のガソリン車やHV車でまだ儲けるつもりか、などと日本のマスコミやEU諸国に叩かれてきました。
※EV車のイメージ
しかし、それもロシアのウクライナ侵攻で情勢は一変しました。ロシアから格安に天然ガスを供給できると見込んでいたドイツ産業界は、その見込みが絶たれると一気に競争力をなくしました。
おそらくその結果でしょうか。ドイツから唐突に「e-fuel(イーフューエル)車の容認」が申し入れられ、結局は燃焼系エンジンは今後も続いていくことになりました。
見栄えの良いスローガンを打ち出して、大騒ぎして、結局妥協案に落ち着く。EUのこれまでのカーボンゼロ対策はこうしたステップを踏むことが多いようです。
EV車の普及はまだ先のこと。日本メーカーは正しかった。そういう意見もマスコミから聞こえてきます。しかし、どこが正しかったとか悪かったとか軽々に論じることではないと思います。
カーボンゼロはいずれ達成しなければ、安心して後世の人類に地球を手渡すことはできません。ここは手を取り合って、技術を融通し合い、クリーンな交通手段を見つけていくしかなさそうです。(水田享介)