「進め一億火の玉だ」とは、太平洋戦争中に日本の政治結社、大政翼賛会が掲げたスローガンです。
実はこの頃、日本の人口は7,000万人程度。統治している外地の人口も足せば1億人との言い分でしたが、ずいぶんとおおざっぱに見積もったものです。
※「宝塚年鑑 昭和17年版」より
(出典:国立国会図書館ウェブサイト https://dl.ndl.go.jp/pid/1109509/1/18 )
では日本の人口が本当に1億人を超えたのはいつでしょうか。1967年(昭和42年)に初めて1億人を超え、2008年(平成20年)に1億2,808万人となりピークを迎えました。
現在は、1億2,200万人(2023年(令和5年)1月1日現在)程度で、今後は毎年、約60~70万人が自然減となる予測が出ています。
この自然減は、東京都区部でいうと毎年、杉並区(約56万人)や江戸川区(68万人)が消えてなくなることになります。
日本は高齢化社会に進んでいると問題提起されていますが、実は人口減少はもっと深刻な問題で、2050年には1億人を切ると予測されています。
2018年(平成30年)にまとめられた「2050年までの経済社会の構造変化と政策課題について」(経済産業省)では、これを2050問題として詳しく分析しています。
「2050年までの経済社会の構造変化と政策課題について」
(経済産業省)
※経済産業省作成「2050年までの経済社会の構造変化と政策課題について」第4ページ
日本の人口が減少に転じて、今年(2023年)で15年目。すでに社会の至る所でその影響が出ています。
そのひとつがインフラの崩壊です。基本的な交通インフラ、道路や橋梁、トンネルの維持が困難になり始めているそうです。
"橋がトンネルが崩れる" 74万のオープンデータを調べると
「橋が、トンネルが崩れていく」 いま、各地でそんなケースが起きています。なぜでしょうか。今回、全国74万の橋やトンネルのオープンデータを詳しく分析してみると、「直せない」道路が増えている...。
(NHK NEWSWEB ビジネス特集/NHK老朽インフラ取材班 2022年12月6日)
全国のあちこちの市町村で、生活に欠かせない橋が通行止めになったり荒れるにまかせたまま放置されている現状がリポートされています。
行政に修繕したり新たに橋を架け替える予算がないためです。いえ役所によっては市内の交通インフラを維持する人材さえ事欠いています。
これらの橋が作られたのはおおむね50年前。日本の人口が1億人を突破した頃です。人口が上り調子のときにはできた工事が、今は難しくなっています。
その姿は、かつて日本のどこにでも見られた商店街のアーケードです。人が増え続けた昭和の時代、商店主達が集まって街路に屋根をつけることがはやりました。アーケード街の誕生です。
しかし、すぐに巨大資本のスーパーマーケットが競合として登場。モータリゼーションの進展でクルマの便の良い郊外に町の中心は移動していきました。
そして、人が通ることが少なくなったアーケード街はシャッター通りとなり、改修されることなく街自体が朽ちていっています。
誰かが悪いわけではありません。人口の増減という社会のビッグムーブメントを的確に捉えて、効率よくリビルドしていくしかないでしょう。
筆者の住む東京多摩地区では人口が増え続けています。近く、小学校が開校するそうです。しかしその小学校は20年か30年後に閉鎖する計画でオープンすると聞きます。
未来永劫、繁栄する社会はありません。末永く維持できる社会をどうやって作るのか。これまで新しく作るばかりで考えてこなかった「サステナブルな社会」をどう実現するか。そのことが問われているようです。(水田享介)