狸が背負った薪に火を放つウサギ、サルが投げた柿に当たり死んでしまうカニ・・・。日本の昔話には残酷な描写は少なからずあり、逆にそれが子ども達の関心を引きつけてきました。
しかし、今やどこもかしこもコンプライアンスだらけ。犯罪の助長、人命軽視になりかねないストーリー展開は、まっさきにはねられる時代になりました。
鬼退治に向かわんとする桃太郎も、法令遵守といわれては身動きが取れません。鬼ヶ島が外国とわかれば、なおのこと。
迷惑行為をする狸やサル、時には鬼にまで、諄々と教え諭して改心させてめでたしメデタシで終わるのが、コンプライアンス済の昔話だそうです。
カチカチ山、さるかに合戦はどう変わった?
時代と共に移り変わる「日本昔話」のコンプライアンス事情
ここ数年で、バラエティ番組や漫画における表現の規制はますます厳しくなった。
そんなコンプライアンスの波とは一見無縁に思える「日本昔話」だが、実は大きな影響を受けていることをご存じだろうか?
(DIME/黒岩ヨシコ 2023年1月23日)
昔話と言えば、筆者が以前このコラムで紹介した「おはなしのくに」(「NHK for School」サイトの中)があります。
その中の、さるかに合戦やかちかち山が心配になり、このコラムを書くに当たり視聴しました。
NHK Eテレは、まだ大丈夫でした。カニはちゃんと柿に当たって死んでいます。タヌキも大やけどを負い、泥の船でおぼれています。
「おはなしのくに」
日本や世界の名作を、語り手が一人芝居で演じます!
(NHK Eテレ)
日本の義務教育では必ず習う『古事記』はどうでしょう。アメノウズメの裸踊りで知られるように『古事記』は性的表現のオンパレードです。『古事記』を書き換えるほどの力も権限もコンプライアンスにはないと見たのか、まだ誰も議論しようとはしません。
語り伝えられる物語には、聞き手の関心をつなぎ止めるため、残酷さや理不尽さを含む展開はつきものではないでしょうか。
ところで、コンプライアンス以上に恐ろしい話が出てきました。
版権が切れた有名キャラクター達がいっせいに豹変しはじめているそうです。
「くまのプーさん」、新作映画で殺人鬼に
-著作権切れで恐ろしい変貌
英作家A・A・ミルンが1926年に発表した童話のキャラクター「くまのプーさん」はこれまで魅惑的で健全な映画やラジオ作品に数多く登場してきたが、実写版の新作ホラー映画「ウイニー・ザ・プー:ブラッド・アンド・ハニー」(原題)は従来の作品とは様相が異なる
(Bloomberg/Thomas Buckley 2023年2月17日)
筆者としては、日本昔話が脱力系の雑談になることより、凶暴化するプーさんをコンプライアンスごときが止められるのか。そちらの方に興味があります。(水田享介)