ここ一番という大事な局面になればなるほど、極度の緊張や理性を失う程の興奮、強い思い込みからか、人はとんでもない失敗をやらかしてしまうもの。歴史をひもとくと、そんなやらかし人物があちこちに隠れています。
今回のやらかし人物は歴史のヒモを解く必要はありませんでした。つい先日に起きたできごとだったからです。
2022年12月22日午前10時、将棋の殿堂、東京千駄ヶ谷の将棋会館では、B級1組に所属するプロ棋士たちの順位戦が始まりました。事件はこの対局開始直後に起きたのです。
プロ棋士が初手で反則負け、将棋順位戦で波乱...
後手番の千田七段「思い込んで準備進めていた」
「後手番」の千田七段が「初手」を指し、午前10時の開始直後に反則負け...。
公式戦で初の反則負けを喫した千田七段は「先手番だと思い込んで対局準備を進めていた。対局を成立させることができず、申し訳ない...」
(読売新聞オンライン 2022年12月22日)
対局開始直後、1秒以下の瞬時にして敗北が決しました。千田翔太七段(28歳)は将棋の世界に深く入り込みすぎて、どっちが先手かなどという周囲の些事が見えなくなったのかも。まぁ、将棋において先手後手は些事ではなかったのですが...。
この勝負ならコマの動かし方を知っていれば(いや知らなくても)私だって勝てるかも、と思った人も多かったことでしょう。
しかしながらこの対局に参戦することはたやすいことではありません。
B級1組とは10名しかいないA級のすぐ下のグループにあたり、総勢13名。13人のうち成績上位2名はA級にあがり、11位以下の下位3名は、問答無用でB級2組に下げられます。
ニュースでよく耳にする「名人位」はA級でなければ挑戦できないため、B級1組は名人戦の挑戦権を獲得するためにはどうしても勝ち抜けなければならない最終関門と言えます。
先日終了したサッカーワールドカップに例えるなら、予選を勝ち抜いた32カ国のうち、ランキング上位10カ国をA級、下位22カ国をB級1組にわけて戦うリーグ戦のようなものでしょうか。
B級1組はA級から落ちてきた棋士、下から駆け上がってくる新人が激しく入れ替わるクラスで、勝ち抜けるのはとても厳しく、通称「鬼のすみか」とも言われています。
今回、やらかし人物として名を残した千田七段ですが、彼の名誉のために言うと、2020年には藤井聡太七段(当時)の朝日杯3連覇を阻止し、今年1月の同じB級1組リーグ戦でA級昇段目前の藤井聡太竜王を破ったことのある実力者です。
これぞ難関、鬼のすみか! 藤井聡太竜王(19)A級昇級を目前にして
難敵・千田翔太七段(27)に敗れる
(Yahoo!ニュース/松本博文・将棋ライター 2022年1月14日)
千田七段の奮起と次戦の勝利をお祈りします。(水田享介)