昔も今も、就職活動は若者の将来を左右する大事な関門ですが、近頃はその大事な試練がないがしろにされているようです。
採用試験のひとつとして導入されているウェブテストを有償で請け負い、替え玉受験していた男がこのほど逮捕されました。
採用選考のウェブテスト、不正横行...
東大生名乗りSNSに「1件4000円で請け負う」
就職活動中の女子学生になりすまし、採用選考を行う企業がウェブで行う適性検査を受けたとして、警視庁は21日、関西電力社員の男を私電磁的記録不正作出・同供用容疑で逮捕...。
(読売新聞オンライン 2022年11月22日)
わかっているだけでも300人のテストを不正に代行、総数では4,000件ほどの「実績」があったそうです。
依頼していた学生に罪悪感はなく、おきまりの文句「みんなやっている」、「ばれたら罰金は払う」程度の認識にとどまっています。
調べてみると、ウェブテストの代行を堂々と宣伝する会社もあります。また試験のシステムを管理する企業も、替え玉受験への対策はあまり進んではいないようです。
ネットの入社試験 業者が代行「2年で1万件」
試験提供会社は「とりたてて対応とっていない
(早稲田大学 政治経済学術院/J-Schoolウェブマガジン/2017年6月16日/取材・執筆・撮影:佐賀 旭)
なぜ学生たちの間で試験に対するモラルが崩壊する事態になったのでしょうか。
筆者が考えるに、今の若者達が育ってきた環境が影響しているようです。ひとつはネットゲームの定着があげられます。ゲームで遊ぶだけならいいのですが、その遊び方に問題があります。
ゲームでよく使われる言葉に「チート」があります。チートとはズルをすること。プレーヤーのレベル上げや有償アイテムをお金で買う行為などをチート行為と呼び、短時間で強くする方法として普及していますプレイすることなく最強になり「無双する」状態を手に入れる方法です。
若者たちが「みんなやっている」という違法行為
人気スマホゲームで「チート」が横行する理由
「みんながやっているし、大丈夫だと思った」。摘発された若者たちは取り調べに口をそろえた。スマートフォン向けゲームで「チート行為」と呼ばれる不正が後を絶たない。
(47NEWS 2022年2月19日)
チート行為・ゲーム代行が子どもたちに広がっている!?
小学生も中学生も注意が必要
軽い気持ちでチーター(チート行為をする人のこと)になったり、ゲーム代行を頼んでしまったりする子どもが少なくないのです。
(コエテコ 2022年2月23日)
子どものうちからこうした違法なチート行為が横行する状態で、どうして就活のテストだけまじめに受けようと考えるでしょうか。
実力では落とされるかもしれない場合、お金さえ出せば合格できるならそっちがいい。まさにチートな解決策です。
実はこうした考え方はゲームだけにとどまりません。青少年向けのマンガや小説、テレビアニメには「異世界もの」というジャンルがあり、この分野でもチートは活躍しています。
若者に良くある現実逃避のストーリーが大半ですが、転生する際に特別な魔法や才能が備わって異世界で生き返るという設定です。どんなこともチートな魔法で解決して無双状態の超人として生きていくという、まったく都合の良いお話に過ぎません。
子どもの頃からチートなファンタジー世界にひたり、ゲームはチートで遊ぶ。そんな生活が大人になるまで続くのです。
就職するからといっていきなりチートなしの現実世界に引き戻されて、困惑するのも当然でしょう。
しかし、人生には魔法もチートもありません。
今週からサッカーワールドカップが始まりました。日本代表チームは強豪ドイツに逆転勝ちしました。ひとりひとりが鍛錬と努力を重ねた結果、勝利を呼び込みました。
コートには22人の選手がいます。平等にボールが回ってきたとしても、4分(4.5%)の時間しかさわれません。自分にボールが来るかもしれないと信じて90分間走り続けるのがサッカー競技です。
チートを信じていたら走ることは無駄ですから、ボールが転がってくるのをひたすら待つのが得策です。そんな選手にボール(チャンス)などやってくるはずがありません。
サッカー選手は誰もチートな能力など信じてはいません。だから走り続けるのです。
そういう選手達を応援していることを、もういちど私たちは考えた方がいいでしょう。(水田享介)