スマートスピーカー、顔認証、家電ナビシステム...。近年、AIを使ったサービスが盛り上がりを見せています。
その波はこれまで実現不可能と思われていたクリエイティブ領域にまで進出しています。たとえば、音楽業界。バーチャル・シンガーの初音ミクは有名ですが、今では唄うだけでなくAIトーク機能で会話も楽しめるようになりました。
初音ミクのAI会話と楽曲を楽しむメタバース喫茶「Cafe MIKU」オープン
「Cafe MIKU」AIトークルームでは、店主である初音ミクとの会話を楽しむことができる他、あなたの気分に合わせてドリンクやボカロ楽曲をおすすめしてくれます。
(株式会社Gugenka 2022年8月12日)
小説の執筆でも日本語対応が進み、「小説 ai 作成」でググると、文章自動作成サイトがいくつもヒットします。
俳句に至っては、著名な俳人の句よりもAIが作った句に高い評価が出るまでになってきました。
AI創作の俳句、高浜虚子の句より評価高く
京都大学の研究グループ調査
人工知能(AI)が作った俳句のうち京都大の学生が選んだ作品は、有名俳人の句よりも評価が高かった、との調査結果を京都大の研究グループがまとめた。
(京都新聞 2022年11月2日)
そんな中で、まだ発展途上なのがイラストの自動作成でした。実はAIにとって画像認識は意外に難しかったのです。AIが自発的に猫をこれは猫だと認識させるために、1,000万枚の画像をディープラーニングさせた「Googleの猫」という有名な実験があります。
2012年にAIの歴史が動いた!
ついに猫認識に成功した「Googleの猫」
Googleは、2012年に、「人が教えることなく、AIが自発的に猫を認識することに成功した」と発表しました。
そして、これは世界中のAIの開発者・学者に大きな衝撃を与えました。
(DIAMOND ONLINE/大村あつし 2018年4月21日)
「これが猫か!」とAIが叫んだ(かもしれない)、わずか10年後の2022年。
私たちは「cat」や「girl」 と入力するだけで、多種多様の猫や女の子のイラストを描く(生成する)時代に突入しました。
イギリス発のイラスト生成AI、「Stable Diffusion」。だれでもアクセスすることができ、無料で望みのイラストを生成できます。
Stable Diffusion Demo
https://huggingface.co/spaces/stabilityai/stable-diffusion
「Enter your prompt」にcat と単語を入れて、「Generate image」のボタンを押すだけで、十数秒後にはリアルな猫とご対面できます。しかも、4タイプも。
おもしろいことに「猫」、「少女」などの日本語でも受け付けてくれます。その場合、和風の猫や少女が出現します。
また、単語だけでなく、いろいろな設定もつけくわえると、さらに目的の画像に近づけることができます。単語をカンマ(,)で区切って条件を増やしたり、英語の文章も受け付けます。
○アニメ風=anime, cartoon, illustlation, painting, manga,comic
○写真風=photo, cinema, detailed,
○メカっぽく=mecanical, work machines,
○写実的に=detailed hair,detailed human eyes,detailed mouth,detailed arms,detailed bust,cinematic postprocessing,cinematic scene,cinematic composition,cinematic lighting,overexpose,ray tracing,
上記の設定を組み合わせて、筆者は戦車を生成してみました。
illustration of huge tank fire bullet running city detailed mecanical work nightmare scene, cinematic scene
開発企業の代表インタビューでは、「イラストやデザインの仕事は退屈」と発言し物議を醸したことでもこのサイトは有名になりました。
「イラストやデザインの仕事は退屈」
──Stable Diffusion開発元の代表インタビュー記事が話題
「イラストやデザインの仕事は、とても退屈な仕事だ。芸術的であるかどうかではなく、あなたは道具なのだ」とし「画像生成AIは今後大きく発展していく。お金を稼ぎたいなら、新しい技術からチャンスを見つける方がずっと楽しくなるはずだ」(エマドCEO)
(ITmedia NEWS/松浦立樹 2022年10月26日)
クリエイティブワークを神聖化せず、沢山ある労働作業のひとつと割り切れる感性があったからこそ生まれたツールなのかもしれません。
イラスト生成サイトは、このほかいくつも誕生しています。
画像生成AI「Midjourney」
https://www.midjourney.com/home/
画像AI「Novel AI」
https://novelai.net/
日本発のAIイラスト生成サイト「mimic」は今夏に登場しましたが、その生成方法にクレームが殺到したためいったん閉鎖となりました。
無断利用リスクで物議のイラストAI「mimic」
イラストレーターが「自作品の使用禁止」続々表明
(J-CASTニュース 2022年08月30日)
今週、ようやくベータ版が登場しましたが、どのような改修がはかられたのか興味深いところです。
mimic(β)
https://illustmimic.com/
また、フリー素材サイト「ぱくたそ」では既存の写真を活用して生成したフリー画像の配布を10月25日からスタートしています。
「ぱくたそ」よりAI画像素材に移動
https://www.pakutaso.com/
筆者はゲームやテレビ番組で、イラストや動画CGを20年以上制作してきました。その経験から考えると、こうした自動生成ソフトには少し危惧するところがあります。
自動生成された画像が本当にオリジナルなものかという問題です。ネット上に溢れる既存の写真やイラストを組み合わせてはいないか、それともそのまま使い回していないか。それを検証する手段がない以上、版権チェックが必要な仕事には使えません。
そういう意味では、AIイラストがイラストレーターやデザイナーに取って代わることは、当分の間はなさそうですね。(水田享介)