世の中には、難しく考えすぎて隘路に入り込んだ難問があるものです。
たとえば今話題の自動運転車。最新の映像処理チップを開発したり、AIに道路や人の動きを識別させたりと、世界中の名だたる企業が巨額の資金や人的リソースをつぎ込んできました。
そして、毎年のようにその成果がマスコミを賑わせてきました。
そう、コロナ前の数年前までは・・・。自動運転の実現を心待ちにしていた筆者は、自動運転に新しいニュースが出てこないなと心配していました。
ところが、最近では人の判断に頼らない完全な自動運転、レベル5の無人運転は不可能ではないか、との意見が増えていたのです。
自動運転のレベル5実用化は不可能であろう..レベル3でさえ難しい
巷では、タクシーやトラックの自動運転化・・・なんて話が飛び交っているようです。しかし、管理人はそのような話題に対して懐疑的。完全な自動運転車である「レベル5」となると、現段階では、五里霧中の世界で現実味がありません。
(メルセデス・ベンツの特徴と魅力に迫る 2022年3月5日掲出)
ウェイモや自動車メーカーはレベル5に達しない?...独自アプローチで自動運転をめざすチューリング
だが、ADAS技術を段階的に進化させ完全自動運転を目指すアプローチでは、いわゆるレベル5の自動運転は実現不可能だという考え方もある。
(レスポンス>自動車テクノロジー>ITS《中尾真二》 2022年2月28日掲出)
※ADAS=センサー技術や制御技術をベースとした高度安全運転支援(ADAS)機能
昨年の東京パラリンピックの選手村で、レベル2で運行中の自動運転車と選手の接触事故があり、選手は出場を断念するという出来事がありました。
東京パラ選手村 自動運転車事故 オペレーターを書類送検へ
去年、東京パラリンピックの選手村で自動運転の車が柔道の日本選手に接触し選手がけがをした事故で、警視庁は、車に乗っていたオペレーターが選手に気付いたにもかかわらず、緊急停止の措置を適切にとらなかったなどとして、6日にも、過失運転傷害の疑いで書類送検する方針です。
(NHK NEWS WEB 2022年1月6日掲出)
東京2020選手村で事故、自動運転技術のリテラシーが問われる[論点整理]
技術が、人やインフラとの協調を必要とするのは当然だ。そもそも技術はそのためにある。したがって、自動運転やAIだからといってすべてをそれに任せる前提が間違っている。「車は命を預かるので100%でなければならない」は、作る側の矜持としては重要だが、あくまで理想だ。
(レスポンス>自動車テクノロジー>安全《中尾真二》 2021年9月5日掲出)
当コラムでも、自動運転の進行を随時ご紹介してきました。
[248]話題の自動運転、公共バスで実現間近!がんばれ左側通行陣営
(2016年06月06日)
[584]自動運転タクシーの営業走行始まる。東京都内
(2018年08月29日)
東京パラリンピックでの事故以来、日本国内ではその進化は足踏み状態のようです。
そんな中、思いがけない方角から新しい知見が現れました。
「自動運転が難しかったのは、クルマをトーマス化してなかったからぁ」
トーマス化とは・・・。きかんしゃトーマス?
その正体は自動運転車に顔があってもいいじゃないか。と、昔だれかが言ったような言葉を実現した技術でした。
東京大学大学院情報理工学系研究科の研究グループは、自動運転車の注意がいまどの方向に向いているか、その方向を目玉で外部に知らせる技術を開発しました。
安全な車社会に自動運転車の「目」が貢献
~「目」を持つ自動運転車で交通事故リスクの低減を目指す~
自動運転車の意図を周囲の道路利用者に伝えるために、モーター駆動で視線を提示できる「目」を付与した実験車両を製作しました。
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20220920/pdf/20220920.pdf
この「目」の機能は、対峙する相手がどこを注意しているかお互いに意識しようとする、移動行動中に必要な基本をAIに初めて取り入れたということです。
わたし(自動運転車)も気をつけているが、あなた(歩行者)も気をつけてね、と相手への協力を求めている点が斬新です。
なぜこんな機能が必要なのでしょうか。それは今の道路状況を見れば明らかです。
信号機の進めや止まれは運転者の善意でしか成り立ってはいません。赤信号でもルールを無視して通行する車もあります。標識にしても同様です。
もちろん、わざと交通ルールを無視したわけではない、不注意や意図しなかった逸脱通行もありえます。しかし交通事故の多くはそれらが原因となっています。
言い換えると、自動車が道路を自由に行き交う今の交通ルールは、コンピュータにもAIにも理解しがたい「意図しない無法地帯」に他ならないのです。
目玉をつけたクルマの実験では、歩行者の危険な道路横断が男性で49%→19%と半分以下に減ったと報告しています。
この「じどうしゃのトーマス化」が正常に進化して、もっと豊かな表情のクルマが現れれば、人とクルマのやさしい共存が始まるのではないでしょうか。(水田享介)