70年7カ月の長きにわたりイギリスの君主を務めたエリザベス女王は、2022年9月8日天に召され、今月19日に国葬が執り行われます。
エリザベス女王死去
スコットランドのバルモラル城やロンドンのバッキンガム宮殿には女王の死を悼む市民の姿が絶えず、存在感の大きさを改めて感じさせます。イギリス以外にも14の国の元首で世界中の人々に慕われてきた女王の死は1つの時代の終わりを意味するのではないでしょうか。
(NHK/解説委員室 2022年09月09日)
さて、ここで問題です。
女王は、
「じょおう」、「じょうおう」のどちらで読む?
どちらが正しいでしょうか。
現在のテレビ番組の多くは「じょおう」と読んでいるようです。では「じょうおう」は間違いでしょうか。
そう決めつけるのは早計かもしれません。
エリザベス女王が1975年(昭和50年)に来日した折、女王を迎えた昭和天皇も当時のテレビアナウンサーも、一様に「じょうおう」と発音していた記録が残っています。
以下の記録映像では、1分過ぎあたりでは昭和天皇が「じょうおう」と発音していることがわかります。また、この映像のナレーターは2022年の現在でも一貫して「じょうおう」です。
エリザベス女王"来日秘話" 新幹線"楽しみ"女王が思わぬ行動に
(khb5 2022年9月13日掲出)
「じょおう」か、「じょうおう」か。どちらで呼べば良いのか、頭が混乱してきましたね。
筆者は大学時代に日本語の講義を受けた際、そんな悩みを解消できるヒントを習いました。
「私たちは漢字を日本語として疑わず使っています。しかし漢字は中国で生まれ育った中国語であり、奈良時代以前の日本人から見ると漢字はすべて外国語に見えたはずです。
しかし、日本人は独自の文字を持たなかったため、記録を残すには外国語の漢字に頼るほかありませんでした。日本語に漢字を取り入れる過程であみだしたのが読みや送り仮名です。漢字に日本語の発音や聞きかじった中国語を無理矢理くっつけたのが、音読みや訓読みの始まりです。
したがって、その用法には寛容であるべきです。」
実例としてあげられたのが、ドアに貼られた「開」や「閉」の漢字一字。これを「かい」や「へい」と読んでも日本語にはなりませんね。
この場合の読み方は、「あける」や「ひらく」、「とじる」でよいのです。送り仮名がなくてもそう読んでかまいません。そうしないと日本語にならないでしょう。
漢字をどう読むのか。そこに厳格なルールがないのが日本語のルール。
では、なぜ女王を「じょおう」と読む人が増えたのでしょうか。
その答えは、言いやすいから、に他なりません。
日本語の特性として、発音のしやすさ、言いやすさ、が好まれ、その方向に流されやすい性質があります。ことばを省略して楽しんだり粋がったりする江戸弁や東京ことばがその代表です。
※江戸時代に始まり、現在も続く「入谷朝顔祭り」
東京とりっぷ/入谷鬼子母神(真源寺)
「恐れ入谷(いりや)の鬼子母神(きしもじん)。びっくり下谷の広徳寺。そうで有馬の水天宮」
先日、NHKの全国放送のニュースで飛行機を特集していました。その時、女性アナウンサーが最後まで「シコーキ」と連呼していて、全く落ち着けませんでした。確かお母様も女性アナとして知られる方で、江戸弁で育ったことは納得しましたが、シコーキは飛びません。
ところで、女房は昔も今も「にょうぼう」です。最近では「にょ~ぼ」と二音節目の「う」を発音しない現象も増えてきました。
しかし「じょおう」のように、ウ抜きの「にょぼ」と発音する人はまだ現れません。言いやすそうなのに。
なぜでしょうか。
その理由は夫が「にょぼ、にょぼ」と言い始めると、妻を軽く扱っているようですぐに逃げられそうだから・・・ではないでしょうか。たぶん。(水田享介)