8月11日は「山の日」。国民の祝日で休日です。平成28年から設けられた最も新しい祝日のため、まだ認知度は低いようです。しかも、昨年はオリンピックの関係で8月8日に移動したため、よけいに祝日らしさが感じられません。
この「山の日」が生まれた経緯も、先にできた「海の日」の対して、海があって山がないのはいかがなものかと、ちょうど祝日のなかった8月に設定したと言われています。
そんな「山の日」にふさわしい名著をご紹介します。
『高熱隧道』(吉村昭・著 新潮文庫)
黒部峡谷にある湖で水死体が発見される衝撃的シーンから始まる『高熱隧道(こうねつずいどう)』。時は太平洋戦争前の昭和11年、黒部峡谷の豊富な水量に目をつけた男たちが、巨大な水力発電所を造る話です。隧道とはトンネルのこと。
トンネルを掘り進めるに従い、雪解け水の凍えるような極寒地獄の一方で、トンネル内ではマグマ熱による灼熱地獄が襲ってきます。
現代では当たり前になったロータリー式掘削機がなかった戦前、高熱の岩盤にダイナマイトを差し込んで爆発させ、少しずつ掘り進むしかありませんでした。
読んでいる間は、難題続出、緊張の連続ですが、戦前の日本人のがんぱりと知恵と工夫に触れることができます。
岩盤最高温度165℃。そこは人が手を出してよい場所だったのか......。
黒部第三発電所建設を背景に極限で生きる人間を描いた傑作。
『高熱隧道』(新潮文庫)
黒部ダム入り口、トロッコ列車の出発点でもある町、宇奈月温泉の書店では、この『高熱隧道』は新刊本同様に今も平積みで販売しています。念のために書いておきますが、この本の初版は1967年(昭和42年)です。
筆者も黒部峡谷訪問の記念に購入しました。
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『西南シルクロードは密林に消える』(高野秀行・著 講談社)
中国南部からインドまで――、時には河川を、時にはジャングルを、道なき道を体ひとつで踏破する旅行記ですが、一般人には決してお勧めできない冒険記録となっています。
著者は中国語、タイ語、ラオス語を駆使して、旅のガイドを行く先々で調達しますが、それがギャングだったり、武装勢力だったり、麻薬マフィアだったりと、スリル満点。人目を避けた密入国のため、一風変わった旅のスタイルとなり、旅路のほとんどがジャングルルートですので、いちおう山の本とします。
中国四川省の成都を出発し、ビルマ北部を通って、最後にはインドへ――
幻の西南シルクロードに挑む著者の前には、圧倒的なジャングルと反政府少数民族ゲリラの支配する世界屈指の秘境がたちふさがっていた。
『西南シルクロードは密林に消える』(講談社文庫)
筆者(水田)もタイ、ラオス、ベトナムのジャングル歩きを趣味としているので、熱帯密林を体験した者にしか書けない空気が感じ取れ、楽しく読みました。ジャングルを仮想体験するには最適の本です。
今年の夏は異常な暑さとコロナの第七波で、気軽に山歩きできるのか、その判断は難しいところです。冷房の効いた室内で体をいたわりながら読書するのもいいかもしれませんね。(水田享介)