8月2日(火)放送のBS世界のドキュメンタリー、「あなたの健康データは大丈夫か -GAFAの果てなき欲望-」 は興味深い番組でした。
2021年に制作されたフランスのテレビ番組ですが、GAFAを始めとした巨大IT企業が、医療分野においてどう動いているのか、レポートした番組です。
「あなたの健康データは大丈夫か -GAFAの果てなき欲望-」
GAFA(ガーファ)と呼ばれる巨大IT企業が医療の分野に参入し、サーチエンジンで得た情報を予防医療や創薬に活用しようとしている。何がおきているのか?最前線をルポ
2021年 フランス ARTLINE FILMS/ARTE France制作
原題:When Big Tech Targets Healthcare
(NHK BS/BS世界のドキュメンタリー 2022年8月2日放送)
体調不良を感じたとき、グーグル検索で治療薬や治療法を探す私たち。米国民の80%はこうした行動を取っているというグーグルは、グーグル検索が家庭の医学事典になったと自負します。オンライン薬局 PillPack を買収(2018年)した米アマゾンは、処方箋薬の通販をスタート。家庭医療のもっとも近い場所にいるといえます。アップルに至っては体の基礎データを常に収集する時計、アップルウォッチですでに世界中の人々の健康データを収集しています。
しかし、信頼に足りる行動ばかりではなさそうです。グーグルは「ナイチンゲール計画」と称して、米国民5,000万人の医療情報を医師と患者の同意を得ずに収集していました。
グーグル、数千万人の医療情報を同意なく「合法的に」収集
(CNET Japan 2019年11月12日掲出)
米国では国民の健康データはデジタル化され、膨大な蓄積とAI分析が進んでおり、的確で高度な医療サービスにつながる日も近いようだと言われています。
しかしその医療サービスを受けられるのは、ほんの一握りの人たちかもしれません。GAFAは民間企業ですから、利益の確保が彼らの最終目的です。健康にはお金を惜しまない富裕層にはまっさきに提供するでしょう。その一方、利益を維持するにはサービスを安売りしないよう、一般には手の届かない高額商品としてとどめておくこともありえます。
番組ではアメリカのGDPの中でヘルスケアの占める割合が高くなっているが、ここ数年で米国民の平均余命が短くなっていることを紹介しています(米メイヨークリニックの医師談)。
医療費が高額なことで知られるアメリカですが、GAFAの参入によりさらにその傾向は強まるかもしれません。アメリカ社会は健康と長寿を謳歌する富裕層とそうではない一生を送らざるを得ないその他の層に二分されるのでしょうか。
英国では全国民が医療サービスを受けられる制度、NHS(National Health Service : 国民保健サービス)がいま大きく揺らいでいます。イギリス国民のカルテを握るNHSは、その電子化に米IT企業 パランティア の参入を認めたからです。
コロナ対策で急浮上、「2兆円のビッグデータ企業」Palantirの正体
(Forbes Japan 2020年4月2日掲出)
同盟国アメリカとはいえ他国の民間企業が、データベース化した健康情報をどう扱うのか。最初の契約金額は1ボンドだったそうです。(後に100万ポンドを追加)。この先何らかの方法で、医療データをもとに利益を上げるつもりなのではと疑われても仕方のないところ。
英国民の健康情報を電子化した先に何が待ち受けているのか。まだ見えてこない未来図に英国民の誰もが一抹の不安を抱いています。
「最強のAIを持つものがルール(Terminal rule)をつくる」とまで言い放つIT企業の技術者。
コロナが発生して以来、ワクチンメーカーは空前の利益を手にしたことは隠しようがありません。
ヘルスケア市場は米国内だけでも、3.6兆ドル(約400兆円)と言われています。
この市場をGAFAのIT企業が独占するのか。そしてそれまでに培ったビジネスノウハウを利用して、世界のヘルスケア市場までも飲み込もうというのか。
フランスには自国の技術のみで作り上げたデジタルカルテシステム DMP があるそうです。そこの最高責任者はこう語っています。
「医療情報のデジタル化は止めることはできないが、大事なのはそのデジタル主権を手放してはいけないということ。」
コロナ禍の社会はIT化を促進させて、リモート勤務やリモート飲みを生み出しましたが、医療の世界にも変革をもたらしそうです。(水田享介)
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■リンク
フランス医療制度のいま
[第1回] 公的システム共有型電子カルテ:DMP
(医学界新聞・奥田 七峰子 2020年3月2日掲出)