7月18日は「海の日」です。
「海の日」は、海の恵みに感謝し、海に囲まれた島国日本の繁栄を願う日、として1996年に制定(7月20日)されました。その後、2003年からは7月の第三月曜日となりました。
その「海の日」にちなみ、ぜひ読んでいただきたい本があります。
『無人島に生きる十六人』(著:須川邦彦)
〔青空文庫、新潮文庫など〕
タイトルからわかるとおり漂流記ものです。この物語は月刊誌『少年倶楽部』(1941年)に連載され、出版されたのは1943年。太平洋戦争のさなかに出版されました。
この物語の元となった漂流は、さらにさかのぼること40年以上の昔、1899年のこと。19世紀末の明治時代のことです。
明治31年(1898年)、海洋調査のため太平洋に出帆した一隻の帆船が、荒れ狂う波に難破状態となり、命からがら小さな無人島にたどり着きます。
乗組員は十六人。船から持ち出せたわずかな装備品で、知恵と工夫をかさねて、水も食料も乏しい絶海の孤島で生きのびた実話です。
水道、電気、ガスといったインフラもなく、もちろんネット環境もスマホもありません。
無線通信もまだ実用化されておらず、救助信号など出せません。乗ってきた帆船は原形をとどめないほどにバラバラに壊れ、島外に助けを求める手段はまったくありません。
木は一本も生えていない平らな島で、井戸を掘っても塩辛い水しかでません。熱帯の太陽に照らされていると、3日もあれば日干しの人間ができあがりそう。
いまの若者なら、
「詰んだ!」、「人生オワタ!」などの不明語をツイるところでしょうか。まぁ、いくらツィートしたところで、昔も今も何も変わらないでしょうが。
では、彼ら16人はどうやって命をつないだのでしょうか。
そもそも、120年以上も昔の体験談を読んだところで、21世紀のネット社会のいま、役に立つのでしょうか。
いえいえ、この漂流記にはいまも通用する英知が満載です。そのすべてを知るには読んでいただくほかありませんが、ひとつだけ抜粋します。
船長である中川は無人島にたどり着くと、すぐに全員と次の約束をします。
「島生活は、きょうからはじまるのだ。はじめがいちばんたいせつだから、しっかり約束しておきたい。
一つ、島で手にはいるもので、くらして行く。
二つ、できない相談をいわないこと。
三つ、規律正しい生活をすること。
四つ、愉快な生活を心がけること。
さしあたって、この四つを、かたくまもろう」
(青空文庫XHTML版「四つのきまり」より引用)
たいして難しくもない約束ですが、何でも手に入る環境で生きる私たちは、このような心がけで生きているでしょうか。
遭難した1899年といえばその32年前の1867年まで、日本は封建制度の江戸時代でした。
それからわずか30数年後の日本人は、自分たちの操舵で太平洋を渡り歩き、ハワイでは英語で交渉をこなし、無人島に放り出されても規律ある社会を維持しようと努力します。
無為に過ごすことを嫌い、知識を高めようと互いの専門知識を披露する青空授業も始めます。
地学、物理学、航海術の知識を総動員して、見張りを続けた結果、ついに救助されるのですが、その姿は現代の私たちと何ら引けを取りません。
明治の日本男子、とは。120年前の大人や若者たち、とは。
その答えが記された『無人島に生きる十六人』。ぜひ読んでみてください。(水田享介)
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椎名誠氏が選ぶ漂流記ベスト20で、堂々1位!! 実録痛快冒険記。
『無人島に生きる十六人』
(著:須川邦彦/新潮文庫)
青空文庫/図書カード:No.42767
https://www.aozora.gr.jp/cards/001120/card42767.html