6月の定番ニュースといえば、カルガモ親子のお引っ越しがあります。一列になったヒナが親ガモの後をついていく姿は、けなげで愛らしく、ニュース番組では心和(なご)む映像としてうってつけなのでしょう。
ところでかわいいヒナたちが、どのくらい生き残るかご存じでしょうか。その生存率はとても低く、全滅することもしばしば。確かな統計はありませんが、成鳥まで育つのは2~3割と言われています。
「カワイイは正義」だけでは生き残れない、野生のきびしい一面です。
今年の6月半ば、東京西部にある筆者の自宅で、思いがけない事件が発生しました。
その日は早朝からいつにも増して野鳥の啼き声がうるさく、家の北側からも南側からも、スズメなどの野鳥が集まって、切羽詰まった様子で啼き交わしていました。
二階のベランダに出ると、おかしな飛び方をするやせたスズメが現れ、お隣のスレート葺きの屋根に止まりました。巣立ちを始めたヒナです。尾羽根も生え揃っていません。すぐ横には親鳥らしき姿も。
傾斜のきつい屋根にスズメが止まるのは初めて見ました。まだうまく飛べないヒナが、心ならずも行き着いた先が屋根だったのでしょう。
そのまま屋根を登り始めましたが、明らかに腰が引けています。
高所恐怖症のスズメ・・・。これから先、やっていけるでしょうか。心配です。
事態はこれだけでは終わりませんでした。次に太い芋虫を咥えたシジュウカラが現れ、ベランダの物干し竿に止まって「ジジジジ」とうるさく啼き始めます。それをとり囲むように四羽ほどのシジュウカラが庭の木をいったりきたり。
そして現れました、頭にまだ産毛をつけたヒナどりです。筆者が立つすぐ目の前、手すりの下に座って「チーチー」と叫んでいます。
そこへ「ジーィジーィジーィ」と啼きながら親鳥がやってきました。親子の対面を果たすと、すぐにヒナは向かいの家の壁をめがけて、墜ちるように飛び去りました。あわてて追いかける親鳥。
巣立ったヒナは、これからしばらくの間、親鳥からエサをもらいながら、飛び方やエサの取り方、天敵への対処法を学び、自立を目指すそうです。
巣立ちビナとは?
5月から8月頃にかけて、多くの鳥が繁殖期を迎え、巣をつくり、卵を産み、ヒナを育てます。
スズメやヒヨドリのような身近に見かける鳥たちはふ化後10日から2週間程度で巣立ちますが、すぐに自立するわけでなく、しばらくは親と過ごし、生きていくのに必要なさまざまなことを学びます。
このような巣立ったばかりのヒナを「巣立ちビナ」といいます。
(神奈川県庁 神奈川県自然環境保全センター)
子どもも、学生も、新社会人も、巣立ちビナと立場は同じ。巣立つとはかくも大変なことです。温かく見守っていきたいですね。(水田享介)