東京・神保町(じんぼうちょう)と言えば、古書店が軒を連ねる「本の街」として全国に知られています。また、この界隈には本店・本社を置く出版社も数多く、マンガ・書籍文化の一大発信地でもあります。
その神保町に2012年、突如として現れ、ひときわ異彩を放った古書店「マニタ書房」がありました。そう、今となっては過去形で語らなければならないのが残念です。
本の愛好家達に惜しまれつつ、「特殊古書店 マニタ書房」は2019年3月末を持って営業を終了しました。
※4月中旬、閉店をお知らせするマニタ書房の看板
マニタ書房は神保町交差点からほど近い、エレベーターなし雑居ビルの4階にあり、店主のとみさわ昭仁さんがひとりで運営する古本屋さんでした。
特殊古書店の「特殊」とは何か。それは店主の「これは売りたい本か」という審査を通った本のみが棚に並んでいることにあります。
まずジャンル分けが特殊です。「お金持ち」、「ギャンブル」、「オタク」、「奇人・変人」、「社長」、「ご長寿」、「おねしょ」、「毛」、・・・そして「人喰い」。まったくもって人を食ったような区分けですが、店主と波長の合う客であればすぐに読みたい本が見つかる、不思議なレイアウトでした。
また、小説本は扱わないというポリシーもありました。本業の都合で営業日も時間も不定期なため、店主のツィッターで開店を確認する必要がありました。
ところで、とみさわさんの本職はといえば、ライターであり、さまざまなコレクター(蒐集家)であり、ヒット作を生み出すゲームデザイナーでもあります。そして、加わったのが古本屋のオヤジの称号。
筆者は今を去ること30年近く前、たしかとみさわさんが週刊少年ジャンプ連載の芸魔団ライターであった頃に知り合いました。私と大学時代の同級生だった宮岡寛くんが、RPGゲーム「METALMAX」を立ち上げたときに、とみさわさんがスタッフとして加わったことがきっかけでした。
初対面は赤坂、TBS近くの小料理屋。なぜそんなに細かく覚えているかというと、「METALMAX」の決起会をその店でやろうと筆者がセッティングしたからです。
そして、当日、ゲームデザイナーの宮岡、木村はじめくん、とみさわさん、そして私の4人で飲んでいた所、お店に入ってきたのがちょうど売り出し中の宮沢りえさん。お母様(いわゆるりえママ)とご一緒でした。まだ、りえママが有名になる前でしたが、広告業界にいた筆者は、りえママのいる撮影現場は大変だと言うことは小耳に挟んでいました。
そういうわけでとみさわさんの印象は薄かった(申し訳ない)のですが、宮沢りえさんをチラチラと横目で鑑賞しつつ(ご本人には失礼でしたが)飲むことができて、男4人でとても盛り上がったことは強く印象に残っています。
※Santa Fe(Rocket News24 より) あの頃はひときわ美しかった・・・
さて、「METALMAX」以降のとみさわさんの活躍は、誰もが知る所となります。
草創期のゲームフリークでは、とあるゲームのシナリオからドット絵までをこなし、苦節7年をかけて、あの話題作のシリーズを生み出します。
また、ライターとしての活動もマニタ書房の開店前後から、いっそう活発になります。
『人喰い映画祭 【満腹版】 ~腹八分目じゃ物足りない人のためのモンスター映画ガイド~』(2010年:辰巳出版)
「人喰い映画祭」を読んだ筆者は、ただならぬ筆力と「人喰い」への思いのこもった迫力を感じました。
とみさわさんがマニタ書房という名前にこだわり、古書店を開いたのは必然だったのでしょう。
マニタ=>マンイタ=>マンイーター=>man eater=>人喰い!
閉店直前にうかがうことのできた筆者は、迷わず次の4冊を選び抜きました。こんな本をまとめて買える書店はマニタ書房だけでしょう。
※『撃墜王列伝』、『熊撃ち』、『アンコールの廃墟』、『彼らは人肉で生きのびた』
店番をしながら、数々の連載をこなしながら、とみさわさんは興味深い書き下ろし書籍を次々と出版しています。
【連載】(終了)
『とみさわ昭仁の「古本"珍生"相談」』(ナビブラ神保町)
【好評連載中】
『ファミ熱!!プロジェクト 「こちゲー ~こち亀とゲーム~」』
【最近の著書】
『無限の本棚 増殖版』(2018年:ちくま文庫)
『ゲーム ドット絵の匠 ピクセルアートのプロフェッショナルたち』
(2018年:ホーム社)
『レコード越しの戦後史 歌謡曲でたどる戦後日本の精神史 』
(2019年:ele-king books)
※とみさわ昭仁氏のTwitterより引用
「アレコード」の収集家でもあるとみさわさんは、TBSラジオ番組「伊集院光とらじおと」にもしばしば登場して、貴重な音源を披露しています。
TBSラジオ「伊集院光とらじおとアレと~アレコード~」
じじぃ!ばばぁ!でお馴染み毒蝮三太夫さんのアレコードを発掘!
2月20日(月)とみさわ昭仁さん!
そうそう、とみさわさん発案で、かっこいい「ナスカジャン」もデザイン。現在は2019年版が好評発売中です。筆者も一着、持っています。着ていると絶対にペルー人か宇宙人に話しかけられるのは間違いなし!
ナスカジャン2019(インヘニオブルーブルー×レッド )
※在庫限りの販売になります
[写真提供:ハードコアチョコレート様]
興味の赴く先はとどまる所を知らずの性分は、ライターの第一歩が芸能ライターだったからでしょうか。
マニタ書房を閉じた今は、肩の荷がひとつ下りた気分かもしれません。次にどんな企画を披露してくれるのか。楽しみにお待ちしています。
というわけで、筆者は神保町へ向かう理由をひとつ無くしました。
ありがとう、マニタ書房。そして、さらば、マニタ書房。(水田享介)
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■関連リンク
フリーとして「好き」を貫く代償――とみさわ昭仁の場合。【前編】
(DIAMOND online 2018年4月25日掲出)
「人喰い」に魅せられた男の七転び八起き人生
(東洋経済ONLINE 2017年7月6日掲出)
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