米中のIT覇権争いが表面化した今年(2019年)、アメリカ商務省は5月15日、アメリカ企業が米政府に無許可で製品を輸出することを禁じるリストに、華為技術(ファーウェイ)と68の関連会社を登録しました。また、この件に関して米政府が許可することはないとするコメントも出されました。事実上、ファーウェイに対する完全な輸出禁止とみられています。
米政府とファーウェイなぜ対立? 3つのポイント
(日本経済新聞・電子版 2019年5月16日掲出)
これに呼応するように、Googleはファーウェイとの取引を停止するとの情報も流れ始めました。そうなった場合、ファーウェイのスマホや端末では、アンドロイド(Android)OS はもとより、Gmail、GoogleMap、Google Play StoreなどのGoogleが提供するサービスはすべて受けられなくなります。
これはファーウェイの稼ぎ頭であるスマホ事業の消失を意味します。中国を除く(もともと中国国内ではGoogleのサービスは受けられない)世界中で、スマホの市場を失うことになるからです。
こうした事態に、ファーウェイは素早く反応しました。アンドロイドOSとの決別と独自OSの採用です。
[FT・Lex]ファーウェイ、独自のスマホOS開発か
米グーグルの元最高経営責任者(CEO)、エリック・シュミット氏はインターネットが米国主導と中国主導に2分される日がやってくると予想していた。
グーグルはその予想を裏付けた。米国が中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)をブラックリストに載せたことを受けて、持ち株会社アルファベット傘下のグーグルはファーウェイがその主要なサービスにアクセスすることを停止した。
(日本経済新聞・電子版/Financial Times 2019年5月21日掲出)
ファーウェイは何年も前から独自OSの開発を進めており、一年以内にはこのOS を搭載したスマホを発売すると発表しています。しかも、そのOSはスマホにとどまらず、タブレットやPC、家電、クルマなどIT社会を広範にカバーするそうです。
ファーウェイ、今秋にもAndroid代替の独自OS採用製品を発売?
スマホ以外にも搭載の可能性
GoogleがAndroidおよび周辺サービスの提供を中止すると発表したファーウェイですが、そのコンシューマービジネスを率いるRichard Yu氏が、早ければ今秋、遅くとも来春にも独自のOSが利用可能になると述べました。またこのOSを採用する製品はスマートフォンにとどまらず、コンピューター、タブレット、テレビ、自動車など多岐にわたるとされます。
(エンガジェット日本版 2019年5月22日掲出)
GoogleやAppleが行っている社会全体のIT化をそのままトレースしつつ、いずれはファーウェイが世界の覇権を握りたいという野心の表れでしょうか。
すでに中国ではトップシェアですから、独自OSがアンドロイドOSと入れ替わることに中国国内に抵抗はないでしょう。
あとは、Googleサービスの使えない中華スマホを、世界でどれだけの人が受け入れるかという問題が残ります。
現在のスマホはAppleのiOSとGoogleのアンドロイドの二強時代です。かつて、スマホ以前の携帯電話は、NOKIA、Microsoft、BlackBerryなど各社が独自のOSを搭載して、しのぎを削る戦いを繰り広げていました。
ファーウェイの独自OSも、過去に起こったOSの覇権争いに再び参戦するのでしょうか。筆者の予想にすぎませんが、ファーウェイOSは中国内もしくは中華圏内のみで流通するローカルOSにとどまらざるを得ないでしょう。あって当たり前のGoogleサービスのないファーウェイ製スマホを、中華圏以外の人がわざわざ購入してまで使うとは思えません。
それでも14億人以上もの人口を抱える巨大市場です。日本のガラケーのように消滅することなく、それなりに繁栄すると予想されます。
いまから84年前、第二次大戦が終決すると、世界はふたつの陣営に分裂しました。片やアメリカを中心とする資本主義国家圏、片やソビエト連邦を首班とする社会主義国家圏です。
もし、ファーウェイの独自OSが順調に中華圏全体に広がっていくとすれば、現在のインターネットは、中華圏と世界標準のふたつのネット社会に分裂するかもしれません。
そうなると、IT技術を軸としたふたつの世界が並び立ち、新しい冷戦が始まるかもしれませんね。
今回、米国が主導するファーウェイ締め出し政策は、5Gサービスの行方を含めて将来のインターネット社会に大きな変革をもたらすことは間違いなさそうです。(水田享介)
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■関連リンク
「ファーウェイ問題で感じたテクノロジーと国家対立の憂鬱」
(ASCII.jp/松村太郎 2019年5月25日掲出)