長時間労働や過度なノルマから引き起こされる、過労死や自死をきっかけとして、いま、「働き方改革」がクローズアップされています。ほとんどの業界でこれまでの働き方の見直し、労働時間の短縮が検討され始めました。
こうした動きは、各業界に思わぬ影響を与えています。小中学校ではクラブ活動の時間短縮、医療現場では医師の超過勤務や無報酬研修制度の見直し、引っ越し業界では人手不足による引っ越し料金の高騰など、「働き方改革」は従来の社会構造を変えるインパクトを含んでいます。
特に、社会的インフラと持ち上げられ、頼られていた24時間営業のコンビニは、実際はオーナーや店長の皆さんの長時間労働が支えていたこと。それがもはや限界に達していたことも、明らかになってきました。
転機の24時間営業 コンビニ、一部加盟店の反対先鋭化
コンビニエンスストアの24時間営業に転機が訪れている。加盟店オーナーらが作る団体が27日、終夜営業を見直すよう、最大手のセブン―イレブン・ジャパンに要求した。コンビニ各社は利便性と収益の基盤となる24時間を維持する考えだが、人手不足や働き方改革の流れを受け深夜営業の逆風は強まる。人件費などを加盟店が背負うフランチャイズチェーン(FC)方式で店舗を拡大してきたコンビニの急所にもなりかねない。
(日本経済新聞/電子版 2019年2月27日掲出)
これまで日本では長時間働くことは「身を粉にして働く」ことは社会の模範であり、美徳のひとつでした。また、仕事を修養や修業の場ととらえて「ガマンして働くのが当たり前」という精神構造が支配的でした。
過酷な勤務体制や深夜残業を断ろうものなら、
「お前は社会の厳しさを知らない」、
「人助けになっているのだから」、
「みんなつらい思いをしている」、
「自分だけ楽しようとしている」
など、いくつものお叱りの言葉が投げかけられるのが常でした。
ただ、こうした働き方は健康にはマイナスであることが、大規模かつ長期にわたる調査から明らかになってきています。
中年男性が11時間を超えて働くと心筋梗塞リスクが増加
50代男性会社員は2.6倍も、と大規模調査で判明
1日に11時間を超えて働く中年男性は、標準的な勤務時間の男性と比べて急性心筋梗塞を起こすリスクが1.6倍になる―。こう警告する研究成果を国立がん研究センターと大阪大学医学部(公衆衛生学)の研究グループが15日発表した。働き過ぎは心臓に負担をかけることは容易に想像できるが、1万5千人を対象にした大規模調査が働き過ぎは少なくとも心臓に悪影響があることを裏付けた形だ。50代の男性会社員のリスクは2.6倍だったことから特に注意が必要なようだ。
(マイナビニュース 2019年3月18日掲出)
若い頃に身につけた無茶な働き方をいつまでも続けていると、歳を重ねるうちに心臓に負担が掛かり、ついには心臓病を発症してしまうということでしょうか。
たとえば、毎日11時間以上働き続けたグループは9時間以内の労働時間のグループよりも、急性心筋梗塞になるリスクは1.6倍も高かったそうです。さらに、50代になるとそのリスクは、2.6倍に跳ね上がりました。
世の中に命よりも大事な仕事などない。
まさに「命あっての物種」とはよくいったものです。とはいえ筆者も含めて日本人の多くは、体が動くうちは(つまり生きている間は)誰しも仕事を続けようとするため、生きている間はその言葉の重みはわからないものです。
では、どうすれば過労死は防げるのでしょうか。
上記の調査結果ではこうした発病リスクの増大は、「長時間労働のために睡眠時間が短くなっての疲労回復が十分できなくなったり、精神的ストレスが増加することが関係している」(上記記事より引用)とのこと。
過労死を防ぐ対策としては、睡眠不足の解消と精神的なストレスをため込まない生活に変えることが大切なようです。また、一日の労働時間が11時間を超す働き方は、自らの健康をむしばんでいくようなものだと言えそうです。
興味深い調査結果も出ています。経営者や自営業の人は働きすぎても心臓病などのリスクの増加は見られなかったそうです。
長生きして働くには、がんばって経営者になるか、独立してひとりで働くかという選択もあるということでしょうか。でも、経営がうまくいかなくなったらもっと健康を損ねそうな気もしますが・・・。
労働時間もさることながら、働くことの意義をどう感じるかという心の問題も、健康に影響しているようですね。(水田享介)