高級食材のマツタケが、人工栽培に成功したことは先日お伝えしたとおりです。
[601]ノーベル賞級の大発明か。バカマツタケ、完全人工栽培に成功
多木化学は4日、マツタケに近い種類のキノコ「バカマツタケ=写真」の完全人工栽培に成功したと発表した。(中略)
培養は3カ月間。マツタケと同じ香り成分がある。完全人工栽培は虫食いもなく、高品質なバカマツタケを安定供給できる。(NEWSWITCH 2018年10月5日掲出)
(当コラム 2018年10月15日)
この発表直後、開発メーカーの株価はストップ高を記録しました。
多木化学 「バカマツタケ」事業化期待
肥料の製造・販売などを手がける多木化学の株価が急騰している。10日は終日買い気配で推移し、取引終了後に制限値幅の上限(ストップ高水準)となる前日比1500円(21%)高の8650円を付けた。4日にマツタケの近縁種のキノコ「バカマツタケ」の完全人工栽培に成功したと発表したことが買いの手がかりになった。
(日本経済新聞・夕刊 2018年10月11日掲出)
ところで、二匹目のドジョウならぬ高級食材の人工栽培がもうひとつ、日本で進んでいたことはあまり知られていません。
岐阜の山奥に"黒いダイヤ"国内生産へ研究
"黒いダイヤ"とも呼ばれる高級食材が、岐阜県御嵩町の山奥で見つかった。この食材、いま流通しているのは輸入品だが、国内で生産できないかと研究も進められていた。
世界三大珍味の一つ「トリュフ」。イタリア料理などによく使われ、高級食材として知られている。
(日テレNEWS24 2019年3月10日掲出)
「黒いダイヤ」とは・・・、トリュフのことです。
※トリュフ(Wikipedia より)
1キロで20万~30万円するためつけられた別称のようです。日本ではすべて輸入に頼っています。その輸入額は年間で9億円以上(2015年)。香りが飛ばないようすべて空輸に頼っているそうです。
「トリュフの輸入」
(東京税関 平成28年11月29日)
もしトリュフの人工栽培に成功すれば、国内で新たな産業が生まれることになります。
この研究が始まったきっかけは、13年前に岐阜県のとある山林で自生トリュフが偶然発見されたことによります。日本で自生するなら国内生産できるのでは、と栽培に向けた研究がスタートしました。
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ここで水を差すようですが、トリュフは意外にも日本でもしばしば見つかっていることは公然の秘密です。しかも意外なことに、きわめて手近な場所に自生しているようです。
イボセイヨウショウロ
秋に広葉樹林の地上に姿を現す。きのこに興味をもつ人の増加にともなって日本各地で発生することが確認されている。世界の三大珍味(あとの二つはキャビアとフォアグラ)のひとつに入れられるトリュフの一種である。 特にこの種は、山奥よりも身近な公園などで発見されることが多いようである。
(公益社団法人農林水産・食品産業技術振興協会 公式サイトより引用)
「黒いダイヤ」は思ったほど、ひ弱なキノコではなかったのです。山深く分け入ったところよりも、適度に掘り返された公園などの木立にひっそりと自生しているのでした。
たしかに「トリュフ 探し方」、「トリュフ 公園」などで検索すると、出てくる出てくる。日本各地の公園や山里、裏山で見つかったというレポートが写真付きで報告されています。
トリュフとは嗅覚に優れた豚や犬がいないと見つからない代物ではなかったのか。ダイヤにもたとえられる高級食材が無造作に地表に頭を出していていいのか。
疑問はつきませんが、日本では黒トリュフ、白トリュフともに北海道から九州まで広く分布しているそうです。(「日本にもあるトリュフ ‐人工栽培化に向けて‐」より 国立研究開発法人 森林総合研究所発行)
ではなぜこんな重大な事実がまったくニュースにならないのか。それは日本人の味覚や日本料理に合う食材とは言いがたいためだそうです。
トリュフの香りや味について語れるほどの知識も食体験もない筆者ですから、そういうものかと納得するしかありません。
フレンチ、イタリアンなどの洋食に親しむみなさんはどう思われますか。黒いダイヤの人工栽培をあざ笑うかのように無造作に繁殖する「天然黒ダイヤ」。そのギャップに、少なからずとまどう筆者でした。
(水田享介)
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■関連リンク
「日本にもあるトリュフ ‐人工栽培化に向けて‐」
(国立研究開発法人 森林総合研究所 2017年3月15日発行)
「トリュフを探そう!~地面の下の未知なる世界~」
(千葉菌類談話会通信24号 2008年3月)