お国が違えば、常識はかわるもの。わかってはいても、時に理解しがたいルールに耳を疑うことがあります。
アメリカのニューヨーク州では、州法によりヌンチャクの使用が50年近くも禁じられていました。
米NY州地裁、ヌンチャクの使用禁じる法律を「違憲」と判断
[ニューヨーク 18日 ロイター] - 米ニューヨーク州の地方裁判所で、武器ヌンチャクの使用を禁止する1970年代に成立した州法に対し、違憲との判断が下された。
アマチュア武道家のジェームズ・マロニー氏が、双子の息子にヌンチャクを使用した武術の型を教えることができないとし、この法律に異議を申し立てていた。
ニューヨーク東部地裁のパメラ・チェン判事は、武器を所持する権利を保障する憲法修正第2条は銃器のみならずヌンチャクにも適用されるとし、訴えを認めた。(ロイター・世界のこぼれ話 2018年12月19日掲出)
銃が蔓延するアメリカでなぜそんな法律があったのでしょうか。
この法律ができた1970年代と言えば、カンフー映画が大流行した頃です。おそらくブルース・リーの圧倒的な強さに憧れた米国の若者が、こぞってヌンチャクを買い求めたことは想像に難くありません。
そして、慣れないヌンチャクを振り回して、じぶんの向こうズネや頭蓋骨にヒビを入れる事故が多発したことでしょう。
アメリカ人にしてみると、見慣れないヌンチャクは青少年の健全な身体を打ち砕く「野蛮な凶器」にしか思えず、ついに父兄のクレームで使用禁止の法律ができたに違いありません。
その一方で、銃の所持はおとがめなしですから、この法律のおかげでヌンチャクは銃より危険な存在となってしまったのです。
筆者はアメリカで発生する発砲事件の統計を調べようとしましたが、信頼できる統計資料が見つかりませんでした。
というのも「およそ20年にわたって連邦法により銃犯罪についての公的調査が制限されてきた」ことがその理由として挙げられています。
「アメリカ人が銃で命を落とす確率は? 驚きのデータが明らかに」
(BUSINESS INSIDER JAPAN 2018年11月22日掲出)
上記の記事では、米国内では銃犯罪によって1万3000人近くが殺害された(2015年/自殺は含まず)ようです。参考までに日本での銃による死者は1人(平成27年次)でした。
「日本の銃器情勢」平成29年版 ~拳銃のない社会を!!~
(警察庁刑事局組織犯罪対策部薬物銃器対策課)
ヌンチャクは持つと危険だから禁止。銃は持ってないと危険だから持ちましょう。
銃は手放せないし銃規制などもってのほか。自分の生命を守るためには、年間1万3000人の犠牲はしかたがない。その人たちはなぜ先に撃たなかったのか。運が悪かったとしか言いようがない。銃弾の通る先に立っていた不幸。
こんな意見が通るのがアメリカのおもしろくもあり、少しこわくもあるところです。この理屈のおかしさが、ちっともおかしく感じられないほど、米国社会は銃という暴力に麻痺していることがよくわかります。
日常生活でも丸腰のままだとやられてしまうという潜在的恐怖は、米国人なら誰しも持っているかもしれません。
その心理の裏返しとして、米国では科学や人知を超越したNinja(忍者)、カンフー武術家に憧れをいだき、より過剰に反応する人が多いのかもしれません。
確かに、ブルース・リーもジャッキーも、映画の中で銃に倒れることはありませんからね。(水田享介)