「できる!」ビジネスマンの雑学
2019年01月16日
[635]不要ですか「三角関数」、大事ですか「無駄のない人生」

 いまもその発言が注目を集める前大阪府知事、前大阪市長にして弁護士の橋下徹氏。今年も年明け早々、話題を提供しています。

三角関数「生きるのに必要ない」「絶対いる」で議論沸騰
 発端となったのは、1月1日に放送されたAbemaTVの番組内での前大阪市長・橋下徹氏の「三角関数は生きていくのには必要な知識ではないのだから、選択制にすればよい」という旨の発言です。
 加えて、橋下氏は自身のTwitterでも、

「興味や面白みを感じない生徒には、それ以上突っ込んだ三角関数の計算の演習は不要」
「今はあまりにも『死に知識』が多いシステム」

とも投稿しており、ネット上で物議を醸しています。
LIMO 2019年1月12日掲出)


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※「∠C を直角とする直角三角形ABC」(Wikipedia より)

 せっかくですので、この件についての橋下氏の意見もご紹介します。

橋下徹"三角関数は絶対必要な知識なのか"
 三角関数は絶対必要な知識なのかどうか。橋下徹氏の発言に対し、「三角関数絶対必要派」がネット上で猛然と批判を浴びせかけた。国民大多数の現況を顧みず、狭い自分周辺の感覚だけで物事を判断する人々はどこが危険なのか。天皇譲位が迫る中、橋下氏が本質的な問題を指摘する。
プレジデントオンライン 前大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹)

 橋下氏の発言は、三角関数を全否定しているわけではなく、子どもが望む職業に合わせた適材適所の知識を与え、学習効率を向上させようという発想のようですから、あえて過激な言い方を選ばれたのでしょう。

 というのも、弁護士活動にも三角関数は重要です。土地の広さを測定するには三角関数は必須ですが、三角関数で算出された面積を疑う人が裁判を起こすと弁護士は困ってしまうでしょう。

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※「PQ(緑の線分の長さ)を求める」加法定理(Wikipedia より)

 そうであるにもかかわらず、三角関数を死んだ知識とまで言ってしまったのは、かしこい指摘ではなかったようです。

 三角関数はゆるぎない定理ですが、社会がその価値と動かしがたい常識を放棄してしまうと、それを再発見し、社会常識として定着させるには途方もない時間と再教育が必要です。

 そうなった時こそ、先人から受け継いだ技術そのものの死を意味します。

 文系人間を自負していた筆者も、学生時代には数学や数式には悩みました。しかし、のちにコンピュータと出会い、プログラムやCG映像を学ぶときに、行列式、ベクトル演算、三角関数には役立ちました。数百行のスクリプトが数行に節約できたことが何度もあったからです。

 三角関数に限らず、ものごとを要約して考えたり、思考過程を間違いなく実行できる手順を記述するには、こうした数学定理が役立っています。

 将来の人類は宇宙空間を自在に移動する存在になるでしょう。いまは平面を移動する二次元ですが、いずれ三次元で自分の現在位置を知る必要がでてきます。そのときに三角関数がわからなければ、目的の星にたどりつくことももふるさとの地球に戻ることもできなくなります。

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※筆者が自転車に乗ると思い描く曲線「正円より得られる cosθ と sinθ」(Wikipedia に動画あり

 それほどの未来でなくとも、ゲーム空間、VR空間、CG映像空間などのいずれも三角関数をベースとした技術を無視して作ることはできません。もちろん訳もわからず遊ぶことはできます。

 ただし、原理もわからず、これらの技術を何世代も利用するだけの状態が続けば、新たな利用を生み出すこともできなくなり、いつの日かサービスは飽きられ、廃れてしまうでしょう。

 人生、何が必要になるのか、学生時代にはわからないものです。

 この職業に就くから自分にはこの知識で十分。学生がそう言ったとしても、その職業にはまだ就いていないわけですから、自分がいま持っている知の範囲内でしか理解していません。インターネットの検索結果から理解できる内容だけをつまんで勉強するやり方は、将来の仕事の領域を限定することになります。

 がんばって自分のクビを締め続け、羽ばたく羽根を短く刈り取っているようなものです。

 はたしてそれで仕事をこなすことができるでしょうか。

 どの仕事にも、ネット情報だけではわからない技術や知恵があるものです。インターネットで開示される情報は、すべてのことを書き尽くしているわけではなく、どこか間違っていてもそのまま流布しているのが実情です。

 橋下氏が大事だという人生に本当に役に立つ知識は、幅広く学習して人生経験を積んだ後でないと身にはつきません。それは知識とは呼ばず、知恵や知見といいます。

 学習の効率化は時には大事です。しかし、若いうちから進路や人生を効率化することが本当に良いのでしょうか。無駄がない人生ということは人生に失敗がないということでしょうが、逆説的にいうと「失敗が許されない人生」を自分に強いているともいえます。

 わけもわからず勉強させられた経験、無駄な学習と思われる時間の積み重ねが、のちに役だったり役に立たなかったりするでしょう。それこそが、人生の妙味というものではないでしょうか。(水田享介)

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