首都圏の鉄道など、公共交通を使っている方なら、エスカレーターでは右側を空けて乗ることが常識になっていることはご存じだと思います。
ことの始まりは、急いでいる人がエスカレーターを歩けるようにというやさしい配慮からでした。ところが、歩くどころか駆け下りや駆け登りする人もいて、危なっかしく思えることがしばしばあります。
このエスカレーターの片側空けをやめましょう、という運動が昨年から始まっています。
危険なマナー「片側空け」は変わるか
エスカレーター「歩かないで!」 東京駅で対策
JR東日本が2018年12月17日(月)から翌年2月1日(金)まで、東京駅で「エスカレーター歩行対策」を試行しています。
期間中は、中央線ホームに通じるエスカレーター2基と、京葉線ホームに通じるエスカレーター4基の手すりや乗降口に、「手すりにつかまりましょう」などといった内容を、文字と絵で表した掲示物が貼られます。壁面には「エスカレーターでは歩かないでください」「お急ぎの場合は階段をご利用ください」「左右2列でご利用ください」といった大型掲示物も。くわえて12月21日(金)までの5日間は、特製のビブスを着用した警備員が、利用者への声掛けも行っています。
(乗りものニュース 2018年12月17日掲出)
最初はいそぐ人に道を譲る親切心からでたマナーだったはずですが、いまでは不用意に右側に立つと、うしろから舌打ちをされるようになりました。
首都圏の交通機関では、右側を空けておくマナーが定着してから、いつの間にかルールとなったようです。危険を伴う行為であるならルールとして放置しておけず、ましてやマナーと呼べるものではないはずでしたが。
JR東日本の試みは賞賛に値するものですが、今さらこのルールをやめましょうと言った所で、その実現は難しいでしょう。この運動はJRが駅にエスカレーターの設置を始めた20年前にスタートするべきでした。エスカレーターの前で長い列に並んだとしても、左側を選択するのが現実です。いちど根付いたルールはそう簡単には変えられるものではありません。
ターミナル駅や最近開通した新線では、地下深い所にホームがあるためか、数フロア分を貫くエスカレーターをよく目にします。また、「このエスカレーターはスピードを速めています」の表示ではたしかに早足にまさる高速運行。
ひとたび転ぼうものなら、軽傷では済みそうもない高低差とスピードに身がすくみますし、利用者を追い立てるような運用法にも疑問を感じます。
なぜそうまでして急ぐのか。新宿駅の地下鉄を定期的に利用する筆者は、朝は通常よりも30分早く家を出るように変えました。
朝の通勤時間帯は、信号や車両の故障、予想外の混雑などでしばしば遅延や通勤路の変更を強いられますが、そんな場合でもエスカレーターを歩く必要がなくなりました。しかしながら、急ぐ必要がないのは筆者だけですから、相変わらず右側を空けておくしかありません。誰もが時間に余裕があるわけではないので、この方法では問題の解決にはなりません。
急いでいる人が多い朝夕のラッシュアワーは、エスカレーターにのんびり立っていられる人は少数派なのです。
結局のところ、片側空けを解消する方法は、ラッシュ時にはエスカレーターの運行を停止して、左右どちら側も歩いてもらう。残念ながら今のところ、これしかないでしょう。
エスカレーターの片側空け問題は、便利な社会インフラも運用ルールが適切でないと、そのメリットを享受できない典型と言えそうです。(水田享介)