「氷上のダンス」とも「氷上の芸術」とも称されるフィギュアスケートは、羽生結弦選手、宇野昌磨選手らの活躍でいつの間にか4回転ジャンプが当たり前になりました。
同じように体操競技も日本の次世代エース、白井健三選手が華麗に4回転技を決めるなど、ウルトラCを超えた大技がつぎつぎと誕生しています。
高難度の新技を成功させる日本選手とは、それは日本(国籍)の若者たちです。ゆとり世代だからとか、ひ弱になったとか言われる日本の若者がスポーツ分野でこんなに活躍するとは・・・と誰しも思いながら熱心に応援していることでしょう。
ただ、しろうとにはテレビのスロー再生で回転している向きがわかる程度で、解説なしではどんなにすごい技なのか、もはや一般人には伝わりにくくなっています。
着地がピタッと決まるところしか見えていない筆者などがこうした競技の良し悪しを語ることなど論外でしょう。
事実、フィギュアスケートも体操も着地以外に空中での姿勢や回転の過不足、技のなめらかさやつながりなど、採点ポイントがたくさんあるそうです。
「演技得点について」
(体操NIPPON オフィシャルファンサイト)
体操競技の場合、演技の優劣は決められたチェックポイントごとに採点して、得点を積み重ねていきますが、次の選手の演技が始まるまでの短時間で集計し、採点結果の発表を行わなければなりません。
ひと跳びで終わる跳馬(跳び箱)を始め、どの演技もあっという間に終わってしまいますから、採点者の忙しさは想像を超えたものでしょう。
一瞬の美の表現のために、一発勝負に賭けた選手たちに向かって、採点者によく見えなかった(いえ、見ることが不可能だった)のでもう一回ゆっくりやってくれとは言えません。
そこに登場したのが、いま話題のAIです。
AIで体操競技採点自動化 富士通、国際体操連盟と開発
富士通は20日、体操競技の採点を3次元センサーや人工知能(AI)で自動化するシステムが、国際体操連盟に採用されたと発表した。2019年開催の世界選手権で導入され、東京五輪・パラリンピックでも5種目の採点支援に用いられる。各国の団体に広げるとともに判定データをテレビ中継用などに販売し、今後10年間で累計1000億円のビジネスに伸ばすのが目標だ。(SankeiBiz 2018年11月21日掲出)
いいところに目をつけたものです。採点者たちの「もうわたしらの目は限界に近づいてますから」という、心の叫びを聞き取ったかのようなタイミングで開発し、しかも東京オリンピック・パラリンピックでの採用にも間に合いそうです。まさしくグッドタイミングです。
今後はCGのクオリティを上げていけば、選手のウェアや表情まで表現できるようになるはずです。いずれは演技の実映像よりもCGの方をメインで見る時代になるでしょう。
すでにテレビのスポーツ中継では、技の部分を抜き出して、さまざまな角度からスローで見せるのが主流です。これにCGをうまく合成すれば、高難度の技がどう評価されたのか、たちどころにわかります。
採点にもAIが活用されることで、競技としての公正さが保たれることにつながりますから、これまでのような不可解な採点はなくなることでしょう。
できることなら、採点で優劣を競うスポーツ以外にもこのAI判定を導入してほしいものです。
たとえば、審判の胸ひとつで勝負が決まりがちな競技といえば、野球、サッカー、ボクシング、柔道、相撲、スノーボードなど、数え上げると意外にたくさんありそうです(もちろんこれは筆者の意見にすぎません)。
ただ競技者のなかには、審判の目を欺いたりお目こぼしを受けたりして自分に有利な判定に導くのも競技のうちという声もあります。さらに言えば、観客の声援は第三の競技者ともいいます。そういう目で見ると、審判も競技を構成するひとりであり、競技者のひとりなのかもしれません。
それを機械まかせ、AIまかせにして良いのでしょうか。
AIは演技の採点はできても、なぜ人間はスポーツをするのか考えません。スポーツの経験もないので、スポーツのおもしろさや醍醐味もわかっていません。
であるならば、AIの判定利用とはスポーツに詳しくないしろうとに採点をまかせるのと本質的には違わないかもしれません。
こうした課題を乗り越えて、癖のある(人情味のある)判定をAIが下せるには、もう少し時間が掛かりそうですね。(水田享介)
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■関連リンク
国際体操連盟、富士通の採点支援システムの採用を決定
(富士通株式会社 公式サイト/プレスリリースより)