2018年10月末、イギリスが自国内で営業するIT企業に示した方針は、ある種の驚きとともに全世界に報道されました。
その方針とは2年後の2020年4月より、イギリスで営利活動を行う大手IT企業には「デジタル課税」という新税を課すという内容です。
英「デジタル課税」20年導入へ 米IT大手標的
【ロンドン=中島裕介】英国政府は29日、大手IT(情報技術)企業を対象とする新たなデジタル課税を2020年4月から導入すると発表した。IT企業が英国のユーザーから稼いだ収入に2%の税率を課すのが柱だ。英国が先進国で初めてとなるデジタル課税の導入に踏み切れば、20カ国・地域(G20)や欧州連合(EU)の議論にも大きな影響を与えそうだ。
(日本経済新聞/ヨーロッパ 2018年10月30日掲出)
デジタル課税に類する新税の導入は、5年以上前からEU内で議論されていました。というのもアップル、グーグルなどの巨大IT企業は世界規模でビジネスを展開していながら、課税を受ける国を税率が低いもしくは税のない所に選んでおり、その姿勢は極端すぎる節税、もしくは露骨な税逃れではないかと批判され始めたからです。
販売地である各国にオフィスや工場を持つ企業なら、そこで税を徴収したり、商品を輸出入する段階で課税したりできます。しかし、デジタルデータやデジタルサービスの場合は、商品を生産する工場や在庫を置く倉庫もないのでそれもできません。さらにデジタルデータ売買の実態はつかみにくく、どの国で生産してどこで販売したかは明確ではありません。
商品、提供サービス、そして決済までのすべてが仮想空間で行われていることなので、まさに雲をつかむような商取引です。
店舗や国などの生産地や販売地をベースに設定した今の税制が、こうしたITの世界ではそぐわなくなってきたことは明白です。
いち企業が国境を超え、国を上回る冨と力を持つことなど、誰も考えてはいませんでした。しかし「GAFA(ガーファ/※1)」四大企業にマイクロソフトを加えたIT大手五社の株式時価総額は4兆ドル(約450兆円/※2)を超え、ドイツを上回る規模となっています。
デジタル課税、日本に暗雲 英導入表明で国際協調機運低下も
英国は2020年4月からこの新税の導入を予定しており、IT企業が英国内のサービスで得た売上高に2%を課税する。課税対象は世界での年間売上高が5億ポンド(約730億円)以上で、「GAFA(ガーファ)」と呼ばれる米国の巨大IT企業グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・コムを狙い撃ちしたとみられる。
ITの巨大企業を対象にした新課税ルールは、以前から国際的な課題となっていた。従来の国際的な法人課税ルールでは、国内に支店や工場など恒久的施設(PE)を持たない企業には原則、法人税を課税できないからだ。国境を越えてインターネットで売買される電子書籍などの利益には法人税を掛けられない。
(SankeiBiz 2018年11月5日掲出)
書店で紙の本を販売すると、物理的にモノが動き、売り上げはその店舗にヒモ付けされます。モノの値段に課税するのであれば、商取引の舞台となった国家が税を課すだけの根拠があり、誰からみても明白です。
企業が国際化すると共に、工場を人件費や税金の安い国や地域に置くのは常識となりました。そのため、各国とも法人税率を下げたり、設備投資や自国民雇用のために優遇処置をとったりしてきました。
一方、電子書籍の場合は、販売したのは海外にあるデータ(本)なのか国内にあるデータ(本)なのかもはっきりせず、課税しにくい面があります。また、IT企業がどこの国で収益を得たかを決定するのも、いまなお議論が分かれています。
ましてやIT企業の本体(本社)は、トップの意向ひとつ、書類ひとつでどこの国に置いても何の問題もないのです。
各国が通信インフラを整えるとたちどころに進出し、豊富な資産と人材を駆使して、あっというまにビジネスの主導権を握ってしまうIT企業。
このうえ消費者から思いのままにデータを収集するのでは、誰よりも国の内情や国民の状況をつかむことができる唯一の存在となってしまいます。
商圏を世界中に広げることは資本主義では善であり、企業としては当然の権利です。ただ「GAFA」の競争原理のまま世界が作りかえられて良いのか。その疑問への答えは、いまはまだ出ていません。(水田享介)
※1=GAFA(ガーファ)
Google、Apple、Facebook、Amazon のIT企業の頭文字をまとめた略称
※2=「『GAFA 4騎士が創り変えた世界』GAFA以降のゲームのルールにどう立ち向かうのか」より参照
(HONZ・堀内勉 2018年08月30日掲出)