「できる!」ビジネスマンの雑学
2016年11月22日
[321]災害に備えて読んでおきたい『三陸海岸大津波』

 2016年11月22日午前5時59分、福島県沖でM7.4、震度5弱の地震が発生して、再び東北地方に津波が押し寄せました。
 幸いにして、今回は「3.11(東日本大震災)」のような、甚大な被害はなさそうです。

 ところで、3.11発生直前には、2月22日に「カンタベリー地震」がニュージーランドで起きていました。
 今回も11月13日にニュージーランドでM7.8の大地震が発生しています。このニュージーランドの地震は、再び日本に地震が起こる予告ではないか、と噂されていました。根拠のない情報でしたが、図らずも的中してしまいました。

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※11月13日のニュージーランド地震で取り残された牛たち

 ただ、日本とニュージーランドで起こる地震の関連性は研究されたわけではなく、経験則での話に過ぎません。
「2016年11月13日ニュージーランドの地震に伴う地殻変動」
(国土交通省 国土地理院 2016年11月17日発表)

 私たちが地震でわかったことは、大地も海も不変ではなく、一瞬にして数十センチ、時には数メートルも割け、時に陥没し、時に飛び上がり襲いかかる不安定なもの、ということだけです。

 ここで災害に備えて読んでおきたい本をご紹介します。

 3.11が起きる40年以上も前に、吉村昭氏が三陸地方を丹念に歩き、村の言い伝えや記録をまとめて1970年に出版された労作、『三陸海岸大津波』(著:吉村昭 文春文庫 原題『海の壁‐三陸沿岸大津波‐』)です。

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 内容は、明治29年(1896年)の津波、昭和8年(1933年)の津波、昭和35年(1960年)のチリ地震津波、の三部構成となっています。

 特に貴重なのは、「明治三陸地震(明治29年の津波)」を体験した証言を元に、当日の模様が生々しく描かれていることでしょう。証言者たちがその恐怖を語ったとき、すでに80代半ば。話を聞くことができた最後の機会だったと吉村氏は述べています。

 また、吉村氏はたびたび三陸地方を訪れて、地震や津波の恐ろしさを講演でも語っています。
 「昭和8年の津波については、田老町(当時は田老村)で貴重なものを見つけた。田老尋常高等小学校生徒たちの作文集であった。子供の鋭敏な目に津波がどう映ったか、興味をいだいたが、読んでみると、予想通りのすぐれた作文ばかりで、しばしば目頭が熱くなった。
 (中略)
 田老町の被害は甚大で、異様なほどの防波堤が海岸ぞいにのびている。」
(『「三陸海岸大津波」 あとがき---文庫化にあたって』より引用)


 「熱心に私の話を聴いて下さったが、話をしている間、奇妙な思いにとらわれていた。耳を傾けている方々のほとんどが、この沿岸を襲った津波について体験していないことに気づいたのである。」
(『「三陸海岸大津波」 再び文庫化にあたって』より引用)

 田老町の巨大な防波堤を見た作者はそれを「異様」と形容しました。また、東北地方から津波の恐ろしさの伝承が消えつつあることを「奇妙な思い」だったとさりげなく伝えています。

 3.11では、田老市は200人近い死者・行方不明者を出しています。「てんでんこ」が伝わらなかった地域では、人的被害は甚大でした。

 この本のあとがきは、こう締めくくられています。

 「今も三陸海岸を旅すると、所々に見える防波堤とともに、多くの死者の声がきこえるような気がする
 平成十六年新春     吉村昭」
(『「三陸海岸大津波」 再び文庫化にあたって』より引用)

 吉村氏は2006年に物故されて、2011年の「東日本大震災」を知ることはありませんでした。しかし、氏には防波堤の向こう側から、憂える「死者たちの声」が耳に届いていたのでしょう。
 そのことを、のちに書き加えた「あとがき」で伝えたかったのかもしれません。

 現代の科学では、いまだ地震を予知することは不可能です。

 当分の間は気を抜かず、わたしたちは歴史に残された警鐘に耳を澄まし、できる範囲での防災に努めるしかなさそうです。(水)


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