[315]東京デザインウィーク火災事故で見えたもの
東京・明治神宮外苑で開催されていた「東京デザインウィーク」で11月6日夕方、展示物が燃えて中で遊んでいた5歳の男児が亡くなり、救助しようとした男性二人がけがを負いました。
せっかくのデザインイベントで起きた不幸な事故ですが、ではなぜ火災が起きたのでしょうか。
燃えたのは木組みのジャングルジムに木くずを絡ませた作品です。構造的に空気の通りが良く、しかも立方体に整然と組み上げた状態ですから、これを積み上げた薪としてみると、誰が見てもよく燃えそうな作りになっていました。
ただ、学生たちにはこれが燃えやすい物としての認識が欠けていたようです。構造物の最下部に、上向きに白熱電灯をセットしてしまいました。
本物のアートではなかった 11月8日 制作者側の日本工業大学によると、本来は照明として、LED電球だけを使用するはずだった。ところが学生らは当日、作業用に持ち込んでいた白熱電球のライトもオブジェ内で点灯させていた。 (産経ニュース・産経抄 2016年11月8日掲出)
これを学生の不注意だったと片付けて良いのか、筆者はふと考え込んでしまいました。
そもそも、今の若者に燃えやすい物と燃えにくい物の区別ができるのでしょうか。 彼らが生まれて成長するまで、火を日常的に扱う環境に居たことがあったでしょうか。
いまやマッチを擦ったことのある子供たちは皆無だと言われています。火から遠ざかった生活を送っていれば、誰しもおがくずが燃えやすい物との知識を得る機会はなかったのではないでしょうか。
便利な物だけを与えられて育ったいまの若者に、こう想像することはできないでしょう。 ・電灯は高熱となるため近くに可燃物を置いてはいけないこと ・おがくずは焚き付けに使えるほど燃えやすいこと ・積み上げた木は火のまわりがとても速いこと。
こうした基礎知識がない若者たちだけで、照明効果を高めるために白熱電灯をオブジェに向けたとしても、そこにいる誰もその行動を止める理由を思いつくことはできません。
見栄えの良さだけで行動したからだ、と断罪してしまえば話は簡単です。大学にも監督責任がある。そうかもしれません。
ただ、それだけでは若者に火災のきっかけとなる行動を起こさせた背景は見えてきません。見えなければ、また同様の事故が起こるだけです。
利便性をひたすら追い求めた先にある、未来の便利な社会。そこにあるのはすばらしい社会のように思えます。でも、その姿が本当はどうなのか、実は誰にもわかってはいません。
便利最優先の社会が行き着く先にたどりつくのは、意外にも悲惨な結末ではないのか。わたしたちはいま、そんな姿を垣間見ているのかもしれません。(水)
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