先日の新聞記事で、日本の「労働生産性」が低いとの報道がありました。
労働生産性、先進7カ国で最低 茂木友三郎生産性本部会長「勤勉な日本が...残念な結果」
日本生産性本部の茂木友三郎会長(キッコーマン名誉会長)は18日、東京都内で会見し、2014年度の物価変動の影響を除いた実質の労働生産性が、前年度比1・6%減となったと発表した。減少は09年度以来5年ぶり。物価変動を加味した名目労働生産性は0・9%増の770万円で3年連続の上昇となったが、昨年4月の消費税率引き上げによる物価上昇に対して、生産性改善が進んでいない状況が明らかになった。
また、経済協力開発機構(OECD)加盟国で比較すると、34カ国中21位。この順位は05年から続き、主要先進7カ国としては最も低い状況だ。
(中略)
さらに、産業別で見ると製造業では米国に対し、7割、非製造業では5割の水準にとどまっている。なかでも飲食・宿泊が26・8%、卸売・小売が42・9%となるなど、サービス産業が依然低水準だ。
(産経ニュース 2015年12月18日掲出)
この記事によると、日本におけるサービス業は生産性が低いことを問題視しています。
しかし、日本のサービスは心配りがすばらしい上に、サービスに対して報酬を求めないという精神のため、チップやサービスの対価を求めることがありません。
このことが海外からの観光客をリピーターとして引きつける大きな原動力となっています。こうした現状を考慮しない統計は、高品質のサービスを提供する日本のサービス産業に対して、あまりにも現実離れした意見ではないでしょうか。
それとも日本でも、飲食代の20%をサービス料金として、欧米並みに請求するべきなのでしょうか。
ところで、この元となるデータはOECDの調査のようです。
OECDの調査と言えば、先日もこのコラムで問題を指摘しています。
2015年09月10日掲出 [134]根拠の薄いデータで人を踊らす、若者のパソコンスキル調査
筆者の調べでは、日本の若者のパソコン調査にわずか34人しか有効回答がなかったこと。また、パソコンのスキルを調べたわけではなく、「使えると思う」という自己申告だったことが、明らかとなっています。
2012年の同様の調査結果に対して、問題を指摘しているサイトがあります。
OECD調べの「日本人の労働生産性は低い」についてちょっと調べてみた
OECDが出している労働生産性は、購買力平価換算のGDPを就業者数で割っているから。(中略)
業種業態働き方問わず1年間に生み出された付加価値である「GDP(国内総生産)」を購買力平価でならして、「就業者」と自己申告している人の数でエイヤっと割っているに過ぎないと言うこと。
要するに、(OECDが示した労働生産性とは)農業だろうと、公務員だろうと、ブラックだろうと、サラリーマンだろうとパートだろうと契約だろうと派遣だろうとフリーランスだろうと、とりあえず「就業者」として国が把握していれば、母数に含まれるということ。対して割られる側のGDPは家計支出は勿論、政府支出、輸入、利子だって含まれてるわけだからなんというか、割と「おおらかな指標値」なわけです。
暴論を言えば、政府がバカみたいに政府支出を増やしてGDPを押し上げれば、労働生産性があがるわけですからね。(中略)
ただ、OECDが言うところの「労働生産性」は国全体の産業を足して就労者数で割った「国全体の平均値」だってことだけは知っておくべきじゃないかなと。
例えば、このデータを根拠に「ホワイトカラーの生産性が云々」とかいうと、かなり滑稽な主張に聞こえてしまうので気を付けて欲しい。
(Hacks for Creative Life! 北真也氏 2014年5月22日)
※( )内は筆者補足
筆者の感想ですが、この調査では、分子の付加価値に対して、分母の就労者数が大きい国、つまり人口の多い国ほど生産性は低くなり、人口の少ない国ほど上位に来る率が高くなるようです。
さらに言うと、人口に対して就労者数が少ない国、つまり失業者数が異常に多い国、たとえばギリシャは労働生産性では日本より上位に位置しています。
また、OECDの調査では、統計からこの国はいいとか、生産性が低くて問題だという評価は下していないようです。
統計は何をあらわしているのか。国別の順位にどんな意味があるのか。順位に安易に一喜一憂するのではなく、データを読み解く人の能力が問われています。(水)