「できる!」ビジネスマンの雑学
2015年08月26日
[123]ルイ・ヴィトンを持って確かめに行こう。「第67回正倉院展」

 いま、世間を賑わせているのが、東京オリンピックで採用されたエンブレムのオリジナル性の問題です。模倣なのか、インスパイア(触発)の産物なのか。それとも全くのオリジナルなのか。

 この問題はひとまず横に置いて、もっと興味深い展覧会の話です。

 奈良国立博物館では、10月24日から11月9日までの期間、「第67回正倉院展」を開催します。期間中は無休。

 今回の出陳の中でも、特に注目を集めているのが、「紫檀木画槽琵琶(したんもくがそうのびわ)」。ペルシャ起源といわれ、1200年以上も昔の楽器ですが、裏面のデザインをよく見てください。
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(画像出典:宮内庁ホームページ・紫檀木画槽琵琶 第3号(http://shosoin.kunaicho.go.jp/ja-JP/Treasure?id=0000014804)をトリミング加工して作成)

 規則的な文様のパターンといい、色の組み合わせといい、高級ブランドとして世界的に有名なルイ・ヴィトンのそれとかなり似ていませんか。
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(画像出典:宮内庁ホームページ・紫檀木画槽琵琶 第3号(http://shosoin.kunaicho.go.jp/ja-JP/Treasure?id=0000014804)をトリミング加工して作成)

 それもそのはず。ルイ・ヴィトンのモノグラム柄と呼ばれるデザイン、19世紀のヨーロッパで「ジャポニズム」が大流行するなか、日本の家紋からインスピレーションを受けて作られたそうです。

 ルイ・ヴィトンのデザインを指して、日本の模倣、もしくはコピーという人がいます。
 しかし、筆者の知る限り、日本では複数の家紋を互い違いに並べるレイアウト(モノグラム柄)はなかったと思います。家紋はその家に所属する証ですから、日本では当然ひとつしかレイアウトしません。複数の家紋を組み合わせたモノグラム柄は、ルイ・ヴィトンのオリジナルと言えるでしょう。

 次に、「紫檀木画槽琵琶」とのカラーデザインの類似性ですが、カラー写真やカラーテレビがなかった19世紀に、正倉院に眠る御物から色の組み合わせや、デザインパターンを模写することは不可能だったと思います。この楽器の持つ絶妙な配色そのものが、1200年もの時間を経て醸し出された偶然の産物に他ならず、製作当時の色合いはまた違ったものでしょう。
 さらに、この「紫檀木画槽琵琶(第3号)」は、明治5年(1871年)の記録によると、ばらばらに壊れていました。いつ頃修復されたかはわかりませんが、現在、私たちが写真で見る完全な形ではなかったようです。
「正倉院と皮革4 精緻を極める琵琶(捍撥)の彩絵 -イランで発育、中国経由で日本に伝来-」(著者:出口公長)

 家紋が似ていると言われても、8世紀にはまだ家紋という単純化されたデザインはありません。「紫檀木画槽琵琶」にレイアウトされた模様は、ひとつひとつが花をモチーフにしたきわめて複雑な文様です。

 優れたデザイナー同士であれば、類似の文様をモチーフにすると、たどり着く究極のデザインは似たものになる。偶然の一致というよりも、必然の結果である。そう思いませんか。

 筆者の一番の関心は、フランスでは表地に使ったこのデザインが、日本では楽器の裏面に使われていることの意味です。デザインを語るなら、ここに起因する精神性の違いを明らかにしてほしいものです。

 8世紀の日本に生きていた職人と、19世紀のフランスのデザイナーが、同じ課題でデザインをやってみたコラボレーション。一方は国宝となり、もう一方は世界中の女性のファッションアイテムに。日本人のルイ・ヴィトン好きも、そのルーツは8世紀まで遡ると思うと、少し誇らしくて愉快な気分になれますね。

 この「紫檀木画槽琵琶」、前回の出陳は1998年だったようです。実に17年ぶりのお目見えとなります。というのも10年ルールなるものがあるためのようです。

「宝物の選定には、一度出陳された宝物は10年間は出陳しないという慣習があります。」(奈良国立博物館・「よくある質問」より)

 今回を逃すと、次は最短でも10年後。「紫檀木画槽琵琶」以外にも、力士のお面「伎楽面 力士」、東大寺の荘園を描いたカラー地図「摂津国島上郡水無瀬絵図」なども出陳されています。

 さて、ルイ・ヴィトンのバッグを持って見学に行くかどうかは、あなた次第です。(水)


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奈良国立博物館・「第67回正倉院展」・公式リーフレット

会 期 平成27年10月24日(土)~11月9日(月) 全17日
会 場 奈良国立博物館 東新館・西新館
休館日 会期中無休
開館時間 午前9時~午後6時
※金曜日、土曜日、日曜日、祝日(10月24日~25日、10月30~11月1日、3日、6日~8日)は午後7時まで
※入館は閉館の30分前まで
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