企業は顧客や消費者の意見に敏感であるべきか、少し鈍感なくらいが良いのか。なかなか結論を出せない問題に、一石を投じる出来事がありました。
ジャポニカ学習帳、昆虫写真を限定復活 人気投票で各年代の1位独占
「ジャポニカ学習帳」の表紙に昆虫写真が復活することが7日、発表された。発売元のショウワノート(本社・富山県高岡市)が通販大手「アマゾン」と共同で実施した表紙の人気投票の結果、上位のほとんどを昆虫が占めたためだ。選ばれた表紙はアマゾンで限定販売される予定で、一般向けについても「復活を検討している」としている。昆虫写真は、教師や親から寄せられた「気持ち悪い」という声があり、2012年から使われていなかった。
(「withnews」 2015年7月7日)
http://withnews.jp/article/f0150707004qq000000000000000W00o0401qq000012226A
ノートメーカーは表紙の昆虫が気持ち悪いという声を放っておくわけにはいかなかった。せっかく届いたご意見を黙殺すると、いまの時代、ネットに書かれてすぐに拡散、問題化します。いったん消費者軽視の企業と烙印を押されてしまえば、商品の販売中止、ひいては倒産まで起きかねない、怖い時代になっています。
だからといって、安全策で少しでもマイナス要素のある商品を外してみたら、昆虫の表紙はすべて消えてなくなったのでした。
一方で、昆虫を主人公としたアニメやゲームは今も数多くあり、子供たちから昆虫人気がなくなったとは聞いたことがありません。教師や親と子供たちとでは、昆虫に対する嗜好が違うので当然のことです。
この場合、どちらの意見に従うのか。担当者は胃の痛む思いをすることになります。
(テントウ虫の脱皮 撮影:筆者)
そこで登場したのが、ネットでの人気投票です。人気ランキングでは昆虫たちがダントツの得票を得て、晴れて表紙に再登場できそうです。
このアンケートから考えさせられることがあります。一部の消費者の意見だけで、企業の姿勢や商品まで変えてしまうことが、はたしていいことなのか。その行為は許されるのか。
企業がクレーム処理を急ぎすることのおかしさに、ようやくみんなが気がつき始めたのではないでしょうか。
昆虫が気持ち悪いという感情は個人の自由です。嫌悪の感情を止めることはできませんから尊重します。ただし、その個人的な嗜好や嫌悪感を盾に、昆虫をノートから外させる行為は、他人の嗜好を害することになります。人間は対等であるとの原則を尊重すれば、ここは自分の領分は守りつつも、他人の領分は侵さない知恵が必要でしょう。
自分には容認できない嗜好を持つ人がいても、その嗜好をやめさせるほどの権限までは、自分には与えらていないことに気がつくべきです。タバコしかり。お酒しかり。宗教しかり。その延長線上には、何を食べて何を食べたくないのか、があることにも気がつくはずです。
イギリスではピーターなんとかと可愛がられるウサギは、フランスに行くと、どこの肉屋でも皮をはがれてバンザイをした状態でぶらさがっています。木の根を食べるのかと笑われても日本人はゴボウを食べます。珍しいトカゲは東南アジアでは珍味です。クジラもイルカも。ちょっと我慢して犬も。
この原則を世界中で認め合うようになれば、地球はもっと住みやすくなると思いませんか。(水)